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試合が終わったその後に
★
試合が幕を下ろした夜、ユイは18番のグリーン際に座り込んで星を眺めていた。
スコットランドにしては珍しく、天気に恵まれた四日間だった。満天の星が彼女の活躍を讃えている。
「はあぁ、おしかったなぁ……」
ユイは大きなため息をついた。激闘の余韻はまだ醒めていない。
「女神さまに逢えたと思ったのに……」
彼女はゴルフの原点に触れたくて、この聖地に挑んだに違いない。
「初戦で単独2位、それも世界ランク一位と対等に渡り合えたんだ。ユイの名は世界に轟いただろうよ」
「ううん、優勝すればジョージのギャラを上げられたかなって」
「なんで俺のために戦ってんだよ!」
「だってお互い嬉しいじゃん。戦友だもん」
そう言われて胸が熱くなる。だが、感傷に浸っている余裕なんてない。この二日間、一流選手の度量をまざまざと見せつけられたのだから。
「ジョージ」
「なんだ?」
ユイは意味ありげに俺を横目で見る。まさか――。
「あたしの専属キャディになってくれない?」
「やらねーよ!」
俺は即答した。もう、キャディの立場では満足できなかった。
「なんでっ!」
「理由は言わねーよ。だか、あとでわかるかもな」
「は?」
眉根を寄せた顔なんて、ユイにはひどく似合わない。ユイは戦っている時が一番かっこいい顔をしているのだから。
誰かに勇気を与え、背中を押し、未来を指し示してくれる。俺は彷徨いながらも、そんな存在に出会いたいと思い続けていた。
それを『女神』と呼ぶのなら――。
――ふふっ、女神って奴は実在するんだな。
ちらと隣に視線を送る。
夜空を見上げるユイの瞳には、きっと未来の戦いのことしか映っていない。そのまっすぐさを凛々しいと思うし、勇敢だとも思う。そして純粋で綺麗だとも。
ただ、それを羨ましいと思うだけでは、この二日間で得たものは水泡に帰してしまう。俺はもう、決心を固めていた。
――俺だってまだまだ戦える。そして優勝してインタビューされる時があれば、こう言ってやるんだ。
『俺がここにいるのは、緑の中で戦う女神と出逢えたからだ』、とな。
その時は絶対観てろよな、ユイ。
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