依頼

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場末のバーのカウンターでバーボンを煽っていた俺の隣に、情報屋のマフィが滑り込んできた。 「ジョージ、クライアントから仕事の依頼がある。明日と明後日、時間をよこせ」 こいつの持ってくる案件は誰かを不幸にする仕事だ。だが今の俺に選ぶほどの余裕はない。グラスを見つめたまま返事をする。 「内容は?」 「潰して欲しい奴がいる。ツアーに出ているゴルファーだ」 「男か?」 「女だ。女子ゴルフ界では最近、アジア勢がツアーを席巻している。そのせいで広告の効果が出資額に見合わないんだとよ」 「なるほど」 スポンサーが自国の選手を活躍させたいと思うのは当然だ。スポーツのルールは公平だが、賞金を捻出しているのはスポンサーの企業だ。彼らの意向を無視するわけにもいくまい。 「で、標的はどんな奴だ」 「最近頭角を現している日本人さ。名前はユイ・ヒムロ」 目の前に写真が差し出される。深い黒を湛えた瞳、幼げな丸顔、そして洒落っ気のないポニーテール。あどけなさを色濃く残していた。 「同伴のキャディが体調を崩して代役を探しているんだとよ」 「そういう情報、よく拾ってくるよな。ちなみに成績は?」 「予選の2日が終わって9位だ。アルファノ選手権、初参加だそうだ」 「ちょっと待て! それ、メジャー大会じゃないか!」 メジャー大会は賞金の額が桁違いだ。それに世界の注目度も高い。参加資格は狭き門だが、さらにリーダーズボードに名を連ねているとは驚いた。スポンサーの危惧が計り知れないのも納得だ。 「決勝の二日間、お前がキャディとしてそいつをしろ。無論、お前の色気で骨抜きにしてやってもいいんだぜ。19番ホールでな」 マフィはいやらしい笑みを浮かべた。ゴルフは18番ホールまでの勝負だから、19番ホールとは、つまりそういう意味の隠語だ。 「馬鹿を言うな。俺はそこまで見境のない男じゃない」 「カッカッカッ、とにかくやり方はお前に任せるぜ」 俺が承諾したとみなしたのか、マフィは笑って俺の肩を叩いた。生きていくために仕事を選べない立場だということを、こいつはよく理解しているのだ。 「ところでコースはどこだ。最近はゴルフの情報に疎くなってな」 「お前がみずから遮断しているだけだろ? アミー・フィールドだ」 聞いて背筋が冷たくなる。 ――よりによってそのコースかよ。 アミー・フィールドはゴルフ発祥の地のひとつとされ、緑の女神が棲んでいると言われている。幸運という女神の寵愛を受ける者こそが、その地で勝利を手にすることができるのだ。 「ユイ・ヒムロの海外参戦は今年からだ。だからアミー・フィールドをラウンドした経験はない。そのコースを熟知しているお前なら、簡単に潰せるだろうさ」
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