1.没落貴族の俺と、謎の男

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 俺がこういう考えを持つようになったのには、明確なわけがあった。  俺の生家はヴィヨン王国で成金貴族と呼ばれていたルキエ男爵家。数代前の爺さんが、金を積んで爵位を買った。つまり、正真正銘の成金貴族だ。  そんなルキエ男爵家には、三人の息子がいた。俺と、二人の兄だ。  長兄は見た目麗しく、誰彼構わず魅了した。その容姿に群がる女性は数知れず。まるで、花に引き寄せられる蝶のようだと思ったのは記憶に新しい。まぁ、そんな長兄は来る者拒まずだったので、誰であろうと抱いていたけれど。女の恨みは、さぞ恐ろしいと知らずに。  次兄はとにかく優秀だった。王宮で文官として働き、周囲の信頼も厚い。少々堅物なのは、長兄の影響だろうか。あんな風にはなるまい。次兄は、その一心で頑張っていたのだと思う。  両親は跡継ぎである長兄を可愛がり、次兄と俺のことはほったらかしだった。いつだって、優先されるのは長兄。次兄はもうすべてをあきらめていたようだけれど、俺はあきらめられなかった。  そりゃそうだ。俺一人だけ、年齢がかなり離れていたから。 「いいか、ユーグ。あの人たちはダメなんだ。……せめて僕たちだけでも、しっかりと生きて行こうな」  次兄は優しかった。いつだって、俺のことを気にかけてくれて、使用人と一緒に俺の誕生日を祝ってくれた唯一の家族だった。  なのに、運命は残酷だった。  次兄は亡くなった。事故とか、病気とかだったらまだあきらめがついたのだろう。実際は、違う。長兄に恨みを持った女が、次兄を刺したのだ。 「兄さん! 兄さん!」  次兄の亡骸に俺は縋った。俺のことを唯一愛してくれた兄。唯一の家族。涙が止まらなかった。当時の俺は十二歳。まだまだ子供で、いきなり次兄が亡くなったことを認められなかった。
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