涙をぜんぶ

1/6
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 つくづくわかりやすいな。  冬の真っ最中なのに、姉ちゃんは向日葵のように眩しい真夏の笑顔で搭乗口に消えた。すると一瞬で、頑張って笑顔を返していた(そう)ちゃんが萎れた。 「冷蔵庫で忘れられて縮んだ菜っ葉?もしくは力尽きて木から路上に転がったセミ。間違って地表に出てきて干からびたミミズかも」 「早奈(さな)もしかして、それオレのこと?」 「もしかしなくても蒼ちゃんだよね、まさに」 「待って。なんでそんなたとえ?傷心のオレってセミとかミミズと同列?」 「出汁を搾り取られてくたくたの昆布。または、開き切ってへにゃへにゃの出がらしの茶葉」 「なにそれ、ナニ仕方ないなって微笑みながら新しいの出してきてんの。昆布とか茶葉で格上げしたつもり?」 「着倒してのびのびになって寝巻に落ちたTシャツ!」 「うわ。ファイナルアンサー?満足そうにドヤ顔しない。もっとあるでしょ、たとえるなら。萎れるだったら、花とかせめて木とか、他にいくらでも」 「センチメンタルにたとえを飾ったって、手詰まりの現状変わんないよ」 「う」 ダウンジャケットの胸を抑えて蒼ちゃんがよろける。とぼとぼ歩む背中について、駐車場に向かった。言い過ぎたかなあと反省しなくもないけれど。じれったいんだよなぁ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!