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第二の性
この世には男と女とは別の第二の性と呼ばれるものが存在する。ずば抜けた才能と知性を持ちあらゆる分野のトップに君臨するα、人口のほぼ大半を占める一般的な性別のβ、そして男女問わず一定の年齢を超えると妊娠が可能であり発情期には強いフェロモンを放ち見境なく相手を求めてしまうという特殊体質のせいで社会的地位が低くなりがちなΩ。薬の開発が進み、発情が抑えられるようになったとはいえ、一部の者から未だに偏見を持たれるΩは、βと偽って生活している者が多い。
勉強も運動も努力しなくても周りの人よりできた。誰もがお前はαだろうと言った。自分自身もαかβだろうと信じて疑わなかった。
ざわざわと騒がしい教室に担任の安田先生が入ってきた。
「席に着けー」
高校に入学して2ヶ月。前の席に座る野村が「早く前を向けー」と注意を受ける。「へーい」と言いながら前を向く野村に「怒られてやんの」と後ろから笑う。
「今日は前に受けた第二性別の検査結果を返すから。伊藤ー」
名前を呼ばれたクラスメイト達が検査結果が入った白い封筒を受け取っていく。
「あっ、今日なんだ。お前はαだろうな」
またこっちを見た野村がそんな事を言った。
「さぁ、どうだろうな?」
「顔良し、頭良し、おまけに運動もできて。何でもできるもん」
「まぁ、否定はしませんけど?」
「腹立つー。俺はβだろうなー。あいつはΩだな」
「あいつって?」
「川上雪成」
「ゆきの事そういう風に言うのやめろよ」
「だってめちゃくちゃ美人だしさ?あいつなら俺抱けるね」
「そんな事言ってたら彼女に怒られるぞ」
「冗談だって。川上の事になると宏一は厳しいんだから」
「野村ー、野村早く来い」
「早く行けよ」
「やべ」
次は俺だな。立ち上がる準備をする
「長谷川ー」
野村と入れ違いで封筒を受け取り、先程話題に上がったゆきの方に視線を向ける。ゆきもこちらに気付いて視線を寄越し控えめに微笑んだ。
同じマンションの隣に住んでいる幼馴染みのゆきは幼い頃から引っ込み思案で男にしては可愛らしい顔立ちをしているせいかからかわれる事が多く、いつも俺がそいつ達を蹴散らしてきた。ゆきは俺が守る。何となくそんな風に思いながら一緒に成長してきた。
席につくと既に結果を見た野村が「やっぱり俺βだったー」とバカでかい声で言っていて笑ってしまう。あちらこちらから「βだった」という声が聞こえる。後で見ようかと思ったけれど俺も見てみようと思い直し封筒をビリビリと破って中身を取り出した。
長谷川 宏一 第二の性 Ω
思わず紙を折り曲げて周りを確認する。誰にも見られていないよな。もう一度紙を少し広げて中身を確認する。見間違いなんかじゃない。Ωと書かれていた。瞬間目の前が真っ暗になった。
「宏一どうだった?」
無邪気に問いかけてくる野村に動揺を悟られないように平静を装う。
「俺もβだった」
「マジで!?めちゃくちゃ意外」
「αなんていないんじゃない?」
「かもしれないなー」
冷や汗が背中を流れる。誰にも知られたくない。大丈夫だ。抑制剤を使えばきっとバレない。俺はβなんだ。俺はβ。心の中で呪文のように繰り返し呟いた。
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