修学旅行の古宿

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私の名前は千尋(ちひろ)。 32歳の、商社に勤務している一般的なOLだ。 これは、私が高校3年生のトキ、修学旅行で長崎に行った際に体験した出来事である。 私が通う高校は、人数の多いマンモス校であった為、長崎にある旅館をまるごと貸し切りにして宿泊するのが、先輩達の代から続く伝統だった。 その何年も前の先輩達の代から宿泊している、私達の学校の馴染みの宿は2つ建物があり、新しく出来た新館の方には女子が宿泊し、旧館の方には男子が泊まる事となる。 だが、宿泊の直前――偶然、私の班が宿泊する予定だった新館の部屋で、急にピンポイントで漏水が発生してしまう。 その為、急遽、空いていた旧館の部屋に宿泊することになる私達の班。 建物自体がかなり古く、廊下も所々薄暗い旧館は正直言ってかなり怖かった。 しかも、旧館は、新館のちょうど真裏に位置していた為、建物自体で館全体の日差しが遮られ、昼間でも尚暗かったのである。 が、そこしか泊まる部屋が無いのだから仕方ない。 私達は我慢して、その用意された和室に宿泊することにする。 こうして、その日の夜。 押し入れから、かなり年季の入った薄く(かび)臭い毛布や布団を取り出すと、そこに潜り込む私達。 しかし、眠りに落ちてから数時間後。 私は、カタカタと何かが揺れる様な音で目を覚ます。 その音が何となく気になった私は、ゆっくりと周囲を見回してみた。 と、その音は私の真上――天井の方から聞こえていることに気付く。 真上は男子の部屋だった為、きっと男子が悪戯か――枕投げでもして暴れているのだろうと考える私。 天井を見上げたまま、私がそんなことを考えていると……なんと、私の目の前で天井板の1つがゆっくりと外れ始めたではないか。 時間をかけて、ゆっくり……じわりじわり、ちょっとずつ開いていく天井の板。 そこが完全に開ききるや、今度はその開いた部分から……何やら細く長い、黒い糸の束の様なものが降りて来る。 どんどんと下に降りて来る、細くて長い――黒い糸の束。 そうして、それが近くまで降りて来た際、私は――それが、『人間の』長い黒髪だった事に気付く。 長く黒い髪の束が、逆さまに私の目の前に降りて来ようとしているのだ。 半ばパニックになり、ふるえながら……恐怖に動けない体で私がそれを見上げていると、外れた天井板の部分から、ゆっくりと女の顔が見え始めた。 そう――なんと、逆さまになった若い女が私の目の前に降りて来ようとしていたのだ。 じわじわと近付いて来る女の顔。 その顔は不気味な笑みを浮かべており、腕には幼い赤子を抱き締めていた。 堪らず、叫び声をあげながら這う様にして部屋から逃げ出す私。 結局フロントで一夜を明かした私は、翌日――私達が宿泊する前日に、その部屋で幼い子供を抱えた母親が無理心中を図った事を聞いた。
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