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学校帰り。草が枯れて茶色一色のあぜ道を歩きながら、僕は例の女の子が誰なのかずっと考えていた。
普通に考えてクラスの女子だよね、たぶん。
ヒロナちゃん? それともタカコちゃん? やっぱりアイちゃんかな?
だけどぽっかりと空いた記憶の穴は、クラスのどの女の子をあてはめてみても綺麗に埋まりそうになかった。
本当に誰なんだろう、あの子は……
家に帰ってからすぐ宿題をして、マルヲ(うちで飼っている柴)の散歩をして。また帰って来たらお風呂に入って、冷えた身体を温めて。上がったら髪も乾かさずベッドに寝転がって。
その間、僕はずっとあの子のことを考えていた。
でもまだよく思い出せない。
お母さんに「ご飯できたよ」と呼ばれて一階の部屋に向かう。いつのまにか帰って来ていたお父さんも一緒だ。今日はお仕事が早く終わったみたい。
お夕飯を食べてる時、僕はなんとなくお父さんに尋ねてみた。
「お父さん。去年って、雪降ったよね?」
「ん? どうだったかな。確か、降らなかったんじゃないか」
「そっか……」
「どうかしたのか?」
「クラスの皆もそう言うんだ。おかしいな、一緒に雪合戦した思い出があるのに、誰も覚えてないって」
「なんだって! 颯太、あんたまさか、あの山に行ったのかい!?」
急にお母さんが話に割り込んできた。なぜか目の端をグッと吊り上げて、赤鬼みたいに真っ赤な顔だ。
「あの山?」
「『不溶山』だよ! あそこには行くなって、何度も言ったでしょうが!」
「え、え?」
そういえばそうだったような。でも僕、山に行った覚えなんてない。
それになんで雪の話が山の話になるのだろう。
僕が困っておろおろしていると、お父さんが「まあまあ、母さん」と助けてくれた。
「颯太の友達も覚えてないって言っているんだ。雪合戦したっていうのは颯太の勘違いだろう」
「えっ」
「……それもそうか。颯太、いいかい? あの山にだけは絶対行くんじゃないよ」
釘を刺すように言うお母さんに僕は渋々うなずく。穏やかなお夕飯の時間が戻ってくる。だけど僕の心はもやもやしたままだ。
お父さんなら味方してくれると思ったのに、僕の勘違いだろうって。
「ごちそうさま」
ご飯を半分近くも残して、僕はとぼとぼと自分の部屋に戻った。
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