エピソード16.

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…… 「…予定より遅いわね。予約の時間に遅れたの?」 ラウンジで落ち合った母は、久しぶりに会う娘に向けているとは思えない冷ややかな目で言った。 「ごめんなさい。道路が混んでいたみたいで…」 義理の父にも頭を下げ、そのまま下を向いて固まる。 嫌な緊張感で…心臓がドキドキする。 いつからだろう…。 実の母に、安心感より威圧感や恐怖心を感じるようになったのは。 「まぁ、こちらが少し遅れても問題はない。振り袖を着て支度に時間がかかったのなら、向こうも悪くは思わないだろうからな」 義理の父にそう言われて、母の顔がパッと明るくなった。 ホテル内のレストランに入って行くと、美しい庭園が望める一面ガラス張りの席に案内された。 お相手の方も両親と一緒に来ていて、近づいて行くと、3人が席から立ち上がった。 「…本日はどうも…!」 「お待ちしておりました…。この度は…」 親同士の挨拶から始まり、私も合わせてペコペコお辞儀をした。 その時、近くの席でよく通る女性の声がする。 「はい!ありがとうございます!では着席…させていただきま…す…」 見ると声は山並さんで…最後の方は響平さんにどつかれたのか、声のトーンがだいぶ小さくなった。 山並さんと響平さんは私たちの席の近くに陣取ることに成功したらしく、こちらもホッとする。 「…栞…」 私も母につつかれてハッとして、1人で棒立ちになっていることに気づいた。 「あ…すいません」 と言って慌てて着席した時…クスクス笑った見合い相手の男性を改めて見て…心臓が飛び出るほど驚いた。
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