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エピソード17.
目の前にいたのは…幸人さんだった。
桃田さんに誘われて行ったあのホストクラブの幸人さん…。
髪こそ金髪が黒になっているけど、この笑顔は間違いなく彼だ。
幸人さんがお見合い相手ってどういうことなんだろう。
こう言ってはなんだけど、ホストがお見合いって、あんまり聞かない…。
両家の挨拶が済むと、さっそく幸人さんのお父さんらしき人が口を開いた。
「幸人は飲食店をいくつか経営する実業家でしてな。今後も事業展開していく予定らしく、忙しくて恋人どころではないと言うので、相手探しを手伝った…というわけなんですよ」
父も大きくうなずいて同調する。
「実業家とは素晴らしい…!
人をうまく使えないとなかなか業績は上がっていかないでしょう。それを回していくとは、才能がおありだ…」
私の父に褒められて、幸人さんは薄く笑って謙遜した。
その後もお互いの両親がそれぞれの子供を自慢しあい、それに対して驚き、さらに褒める…というこそばゆい時間が続いた。
コース料理が出てきたけど…何を食べているのかあまり味がしない…。
そっとため息をついたところで、幸人さんがそんな私を見ていたように口を開いた。
「そろそろ2人だけで話したいから、料理が終わったら僕たちは移動するよ」
それぞれの両親はどちらからともなく「それはいい…」と言い合い、私は幸人さんとにテーブルを離れることになった。
その時、母が私を呼び止め「少し着物が着崩れているから…」と襟元を直しながら…
「…失礼のないように対応しなさいよ。お父さんの顔に泥を塗るようなことだけはしないで」
誰にも聞こえないような小さな声で、きっぱり言った。
「…はい」
母の言葉に、少し眉を寄せて下を向いた。
まるでそんな私に気づいているように、幸人さんが急に私の手を取った。
「行こうか。栞さん」
「…は…」
「はい」も「いいえ」も言う前に、素早く手を引かれて焦る…!
まさか移動することになるとは思ってなかった…どうしよう…。
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