ハルを想う

13/13
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 あれから25年。私は再び高校の正門に立っていた。  当時と変わらない門構え、校舎、そして、グラウンド横で伸び伸びと枝を広げる楠。今すぐに高校時代に戻れそうな気がする。そんな感傷に浸っていると、後ろから声が聞こえてきた。 「全然変わってないな」 「ユウトは変わったよね。すっかりおじさんになっちゃって! まぁ、私ももう制服は着れないから、お互い様かな」  振り返って、ユウトと二人で笑いあった。  今日は私たちの娘の入学式。これから青春を迎える彼女たちは輝いて見える。 「そろそろ行かないと、式が始まるぞ」 「うん。わかった」  体育館へ向かうためにグラウンドの横の道を進む。  楠の横を通り過ぎようとした時、ビュウっと強い風が吹いて、思わず目を閉じる。楠の葉が擦れ合う音が聞こえる。  ──そういえば、ユウトとの始まりもこんな強い風がきっかけだったな。  ふと、あの時のポケットの温かさを思い出した。  あの時のポケットの温かさは、優しく特別だったと今でも思う。なんとなく、そっとジャケットのポケットの中に手を入れてみた。  すると、私のジャケットのポケットが一瞬温かくなった。  ──えっ!?  驚いてポケットから手を出して、まじまじと自分の手を見つめる。  ──何もない。  再びポケットに手を入れたが、もう温かさは残っていない。ポケットに手を入れたまま呆然と立ち尽くしていると、楠の葉が風に吹かれてサワサワと音をたてた。 「おーい!」  体育館の入り口で私を呼ぶユウトの声が聞こえた。 「あ! ごめん」  慌てて体育館へ向かう。後輩たちのポケットに、幸せな”ハル”が訪れることを祈りながら。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!