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あれから25年。私は再び高校の正門に立っていた。
当時と変わらない門構え、校舎、そして、グラウンド横で伸び伸びと枝を広げる楠。今すぐに高校時代に戻れそうな気がする。そんな感傷に浸っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「全然変わってないな」
「ユウトは変わったよね。すっかりおじさんになっちゃって! まぁ、私ももう制服は着れないから、お互い様かな」
振り返って、ユウトと二人で笑いあった。
今日は私たちの娘の入学式。これから青春を迎える彼女たちは輝いて見える。
「そろそろ行かないと、式が始まるぞ」
「うん。わかった」
体育館へ向かうためにグラウンドの横の道を進む。
楠の横を通り過ぎようとした時、ビュウっと強い風が吹いて、思わず目を閉じる。楠の葉が擦れ合う音が聞こえる。
──そういえば、ユウトとの始まりもこんな強い風がきっかけだったな。
ふと、あの時のポケットの温かさを思い出した。
あの時のポケットの温かさは、優しく特別だったと今でも思う。なんとなく、そっとジャケットのポケットの中に手を入れてみた。
すると、私のジャケットのポケットが一瞬温かくなった。
──えっ!?
驚いてポケットから手を出して、まじまじと自分の手を見つめる。
──何もない。
再びポケットに手を入れたが、もう温かさは残っていない。ポケットに手を入れたまま呆然と立ち尽くしていると、楠の葉が風に吹かれてサワサワと音をたてた。
「おーい!」
体育館の入り口で私を呼ぶユウトの声が聞こえた。
「あ! ごめん」
慌てて体育館へ向かう。後輩たちのポケットに、幸せな”ハル”が訪れることを祈りながら。
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