Mr.スミス

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 私はジェントルマン。名をスミスという。  初めて美代子さんと会ってカミナリに撃たれたように熱く求め合った。そして二人は一緒に暮らすようになった。  あなたが花粉症で苦しんでる時に、そっと寄り添い、あなたが噛みついた瞬間、恵方巻きが分解してしまった時も、あなたは食し、私は片付ける係となって、恵方巻きとの無言の戦いに有終の美を飾る事ができた。  あなたが食事中、その魅惑的な唇を汚してしまった時は、私が熱いベーゼでそれを拭った。  「今日はイカスミパスタだったんだね……」と私がささやくと、あなたはほんのり頬を染めたのを忘れない。  しかし、私はマッドサイエンティスト恵理子にそそのかされ、狂ってしまった。  美代子さんを傷つけるつもりはなかったのだ。ただ、手伝って欲しいと恵理子に頼まれ、恵理子に付き合っている内に、入ってはならない場所に入ってしまった。そして押し寄せる悪魔の水と合体してしまい、私はモンスターと化した。  私はふやけてしまった、ふやけてしまった、ふやけてしまった、ふやけてしまった。  私は増えてしまった、増えてしまった、増えてしまった。  美代子さんを傷つけたかったわけではないが、結果的にあなたの財産を無きものにし、あなたを裏切り、あなたの人生を狂わせた。   美代子さんは私と睦み合った日々を忘れ、私を憎み、戦鬼と化して哄笑する恵理子と今、戦っている。恵理子は……私と出会ったあの時から、美代子さんの支配を目論んでいたのだ……。  私はもう戻れない。もう実体も自我も保てない。でも……愛していたんだ……。  恵理子は3つ。私は恵理子の服のポケットの中に入ったまま、洗濯機でぐるぐる回ってしまった、ティッシュ、Mr.スミス。  美代子さん、愛させてくれてありがとう、思い出をありがとう、熱い涙でもう前が見えない。さよなら美代子さん。  (終わり)
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