第0話

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 商業ギルドと冒険者ギルドは独立した組織なので、例外を除き王候貴族は介入できない。  にも関わらず要らんちょっかい掛けてくる輩はどこにでも湧いて出てくる訳で。 「この小娘で間違いないな?」 「はい。武神と名高いSランク冒険者・リーゼロッテの姉、シスコンバーサーカーにして世界に革命をもたらす商魂悪魔・シャルロッテで間違いありません」  ガタゴト揺れる荷馬車の中、手足を縛られ口を封じられた哀れな子羊を横目に密かにやりとりをする煌びやかな服装の肥え太った男と従者。  はーい、現在誘拐されてまーす。  自慢じゃないけど私ここ数年で大分顔が売れてるからね。貴賤問わず良い意味でも悪い意味でも目を付けられてるのは重々理解してたから用心して常に護衛をつけてたんだよ。  でもほんの一瞬お花摘みに行って戻ってきたら護衛が気絶してて、こりゃヤバいかもと私が何かする前に知らない男共に囲まれてあっという間に自分も気絶させられ、気が付いたらこうなっていたというね。  煌びやかな服装の男は最近財政が傾いてきたとある伯爵家の当主。怪しい動きは把握してたが即日実力行使する胆力などないと判断し放置してたのがまずかったか。まさか商業ギルドから追放されて逆恨みしてる輩と結託するとは思わなんだ。  よし、後で国王にチクろう。杜撰な領地経営も併せて報告したら爵位剥奪は免れないだろう。ノーブレス・オブリージュの精神を培え!貴族の義務を果たせ怠け者!と叱責されるのが目に浮かぶわ。  さて現状どうするかだが……どうしようもないな。  ゴリラな妹と違って腕力のない私が己を拘束する縄を引きちぎるのは土台無理な話で、器用に縄抜けできたとしても馬車の扉側に向かい合って座る豚貴族と従者を出し抜いて脱出は不可能。無駄な試みは諦めて大人しくしてよう。  豚貴族と従者と務めてしおらしい態度の私を乗せた馬車は貴族街の中程にある屋敷に吸い込まれていった。
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