恋心の自覚

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 つねづねネーヴェは思っている。  何故、片付けない人が多いのか、と。  整理整頓を怠けていると、どこに何があったか分からなくなる。必要になった時、探し出すのに苦労し、貴重な時間を無駄にする。  必要なものが、必要な時にすぐ取り出せる。  それだけで多くの物事が楽になるのだ。 「とは言ってものぅ。今から掃除は」 「有事の際に、すぐ剣を持って戦えるようにするのですわ」 「……よし。やろう」    戦好きの祖父と孫は、ネーヴェの言葉に同意してくれた。   「ものは言いようだな……」 「シエロ様は、手伝ってくれませんの?」    呆れているシエロをちらと見上げる。  すると彼は「馬鹿を言え。女にばかり力仕事をさせられるか」と不敵な笑みを浮かべる。  さりげなく護衛として同行していたカルメラが、大笑いして言った。 「シエロの旦那、男前だね! バルド様、武器庫はどちらに? 私どもも手伝います」 「私たちも……」    バルドの屋敷の侍女たちも手を上げる。  皆でぞろぞろ武器庫に向かった。  侯爵の家は広く、武器庫は別の専用棟となっている。その前まで来ると、老人は何故か迷う様子を見せた。   「開けても大丈夫かのぅ……」 「?」    グラートが「開ければ良いじゃねえか」と無造作に扉を開けると、中から古い槍の柄が押し寄せてきた。  はみ出した武器の山がなだれ、グラートが下敷きになる。 「……」    ネーヴェは深呼吸した。  これは中々取り組みがいのある大きな山だ。 「皆さん! まずは庭にすべて武器を運び出しましょう。空いている箱を持ってきて下さい! 武器の種類ごとに仕分けるのですわ!」    こうして大掃除が始まった。  グラートが言った通り、武器庫の中身は、武器と言っても古道具ばかりで、まともに人を斬れそうなものは少ない。折れた剣や、刃のない鞘だけ、というものが大半を占めている。武器収集という物騒な趣味でも、大目に見られているのは、そのせいかもしれなかった。 「爺様、これは」    嫌そうな顔でガラクタのチェックをしていたグラートが、何か見つけたようだ。  それは鞘に入った長剣だった。  立派な(こしら)えの鞘で、すっと剣身を抜き出すと、刃が青白い光を帯びる。 「業物(わざもの)じゃねえか」 「それは昔、天使様から(たまわ)った宝剣じゃな」    バルドは懐かしそうに言った。 「国乱れ、守るべきものがフォレスタに見つからなくなったら、これで自分を(しい)せよと天使様が仰ったのだ。もちろん、使う機会は無かったがの」
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