母と娘の内緒話

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 飴玉が一つある。それは好きな人からもらった手元に残る唯一の品で、私の唯一の宝物でもある。  白髪を綺麗に染めて、毎月美容院でトリートメントをする。それが私の唯一の贅沢だった。もう歳は六十五を超えて、ずっとしてきたOL生活も卒業した。今はドラッグストアでパートをしている。年金生活で暮らせるほどこの国の体制は決して良くはない。厚生年金で良かった、とこの歳になって思う。  結婚生活ももう三十年が過ぎていた。夫は一つ年上で、今はガソリンスタンドで働いている。元々、ずっと工場で働いていた。意固地なところがあり、働いていない人を良く思わない人だった。専業主婦なんてもってのほかだった。  息子と娘が一人ずついるが、二人とももう成人して家を出ていた。息子には四歳になる子供がいるが遠方に住んでいるため会える機会はごくわずかだった。そのわずかを、私は大切にしている。  娘はどうやら同性愛者のようで、夫には話していないが、子供は望めないと思う、と私に話してきた。私は淋しくはあったが、娘には娘の人生があるのだから、とよく相談に乗っている。娘は同じ市内に住んでいるので、月に一度くらいは食事に行ったりもしている。娘が真っ直ぐに育ってくれただけで本当に良かった。  娘と私は秘密の共有者だった。  そう、私にも秘密がある。夫には絶対に言えない秘密だった。私がずっと温めてきたもの。それでも、夫を私は大切に思っている。その事実は変わらないのだけれど、私にも私の人生がある。それを犯すことは決して夫でもできない。これがなくなったら、私は崩れてしまうんじゃないかと思っている。
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