待ち合わせ

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 そして瑠璃は今、地上30階建てのホテル日航金沢を見上げている。淡い煉瓦色のこのホテルは北陸随一の高階層ホテル、平日にも関わらず宿泊客の多さを物語る部屋の灯りが眩しい。昭和大通り沿いのエントランスから入館するのも気が引け、その隣の商業施設入り口からエレベーターを目指した。凛としたホテルスタッフが深々とお辞儀をするものだから、瑠璃も思わず会釈をしてしまった。 (ええと、客室直通は・・・エスカレーターを登ってからか)  エスカレーターから見下ろす大理石のフロアには大きな壺に季節の花弁が揺れ、婚礼用のものなのだろうか、金色の手摺りが螺旋階段となって上階から続いている。ふり仰げば雫のように落ちる金色のシャンデリアに目が眩んだ。 (いやぁ、緊張する。23階ね、23、と)  ここまで勢いで歩いて来たものの、気がつけば指先が震えていた。脇が汗ばみ、心臓の音が跳ねて身体中を血が走り回った。 ポーン  エレベーターを降りて左側に非常用ドアと縦に長い小窓があった。階下には夕暮れの街が見下ろせ、遠くに医王山の山並みが見えた。瑠璃はその景色を眺めると大きく息を吸って深く息を吐いた。 (よし!)  臙脂色のカーペットを踏み布張りのベージュの壁を伝って歩くと、2328号室への矢印が鈍い金色を放っていた。この先に黒木が瑠璃を心待ちにしている。頬が紅潮し、耳元が激しく脈打った。
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