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「……はい、……はい……そうですか」
なにか聞こえる。身体がだるい。心地好い手の感覚に瞼を上げてゆっくり視線を向けたら、ベッドに座った開成がスマホで通話をしながら俺の髪を撫でている。目が合うと優しく微笑んでくれて、ああ……開成の笑顔だ、と心が温かくなる。
そのまま髪を滑る手のひらの感覚に酔っていると、通話が終わった。
「仕事の電話?」
サイドテーブルにスマホを置く開成に聞く。
「ううん。ちょっと違う」
「……?」
なんだろう。……仕事って言えば、俺も新しい仕事探さないといけないんだった。
「ねえ、忍」
「なに?」
「永久就職ってどう?」
「は?」
「チャペルウエディングと人前式、どっちがいい? あ、もちろんうちのホテルだよ。吉村さん除けもしないといけないから、みんなの前で愛を誓おうね」
「……吉村さん?」
突然どうしたんだろう。おかしな夢でも見たのかな。それに、なんで急に吉村さんが出てきたんだ。愛を誓うってなに?
俺が相当怪訝な表情をしていたんだろう。開成が先程以上の優しい笑みを浮かべる。
「忍は、はっきり言われないとわからないんでしょ?」
「……」
『……俺は、はっきり言われないとわかりません』
確かに俺がそう言った……佐竹さんに。
「もしかして、さっきの通話相手……」
「誰だろうね?」
開成の顔がゆっくり近づいてきて、唇が触れるすれすれでぴたりと止まった。
「……なんてね。ちゃんと事務スタッフとして雇いますよ。『大知さん』」
優しく唇が重なる。
……絶対勝てない。
そっと開成の背に腕を回して、重みを受け止めた。
この日、ウエディング式場の見学をして挙式予約をした。冗談じゃなかったらしい。
END
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