コウちゃんが死んだ

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コウちゃんが死んだ

 コウちゃんが死んだ。私はそれを聞いて、コウちゃんと一回くらいセックスしたかったな、と思った。  コウちゃんの死に方は、自殺だったので、お葬式は近親者のみで行ったそうだ。私と夢菜が、コウちゃんから連絡最近ないねー、なんて言い合っていたとき、コウちゃんはもうこの世にいなかったということになる。  私と夢菜に連絡をくれたコウちゃんのお兄さんは、コウちゃんには全然似ていなくて、髪は黒いし、ピアスも開いていないし、まともな大人、という感じの人だった。私も夢菜も、年齢としては27歳で立派な大人だけれど、まともな大人とは全然言えない生活をしている自覚があったので、コウちゃんのお兄さんに、弟によくしてくださってありがとうございました、なんて頭を下げられて、大変恐縮してしまった。  コウちゃんのお兄さんは、私と夢菜に頭を下げ、そそくさと帰って行ってしまった。多分、コウちゃんの知り合いに片っ端から会っているんだろう。コウちゃんには知り合いが多かったけれど、まともな人は少なかったから、大変だな、と思った。  「コウちゃん、死んじゃったんだ。」  夢菜が、ぽつんと言った。私たちが普段なら絶対入らない、純喫茶、みたいな雰囲気の喫茶店で、私も夢菜も、普段なら絶対飲まないコーヒーなんかを啜っていた。  「ね。死んじゃったんだ。」  「ね。」  「ね。」  他に言うことがなかったので、私も夢菜もそれで黙った。  しばらくして、コーヒーを飲み終えた夢菜が、帰ろうか、と言った。私も、うん、と立ち上がった。お会計は、コウちゃんのお兄さんが済ませてくれていた。  私の家は、喫茶店から歩いて三分のアパートの二階。夢菜は同じアパートの三階。私と夢菜が通っていた女子大に近いから、昔はこのアパートには友達というか、顔見知りというかな女の子がたくさん住んでいたのだけれど、いつの間にかもう、夢菜だけになった。  「じゃあね。」  と、夢菜が階段を上って行った。私も、じゃあね、と、その背中を見送って、自分の部屋に入った。  学生時代からの住み慣れた部屋に、よく夢菜は遊びに来る。コウちゃんも、よく来ていた。でも、もうコウちゃんは来ない。それは、なんだか不思議なことに感じられた。  コウちゃんとは、一年くらい前に、近所の居酒屋で知り合った。その日、夢菜は荒れていた。失恋したのだ。夢菜の相手は、いつもの通り、と言うべきか奥さんのいる人で、別れた理由は、奥さんに夢菜とのことがばれたからだったらしい。とにかく夢菜は荒れていて、お酒をがぶがぶ飲んだ。私は、向かいに座って、いつも通り、ちょびちょびお酒を飲んだ。私は、お酒に弱いのだ。
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