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「あ……っ、寒いよな。えっと僕のスーツのジャケットで本当に申し訳ないけど……寒いよりはマシだと思うから……」
「えっ、あのっ、全然大丈夫です……くしゅんっ」
俊哉の親切を受け取るのがなんだか申し訳なくて速攻で断ったのに空気の読めないくしゃみのせいで、俊哉がさっとジャケットを脱ぐと私に手渡した。
「いや、あの私……」
「ほんと嫌じゃなかったら使って。一応……先週末にクリーニングから戻ってきたばっかりだから……あと寒いの僕こそ、気が付かなくてごめんね」
私は俊哉のジャケットを羽織ると、少し迷ったが俊哉に向かって頭を下げた。
「先生……謝るのは私の方です……」
「え?」
「嘘ついて……本当にごめんなさい……」
さっきから、いや俊哉は『マサル』と声をかけてきた時から私の服装を見て気づいている筈なのに何も言わない。
「私……男の子でもなければ、大学生でもないんです。高校三年生で十八歳です」
「……うん。マサルが高校生だってのはその制服見て……すぐに分かった。内心驚いたけど……嘘をついてでも誰かに『寂しい』を聞いて欲しかったんだよね」
俊哉の優しく穏やかな声に私の両目からはまた涙が溢れ出す。今ここで言葉にしないと本当に心が死んでしまいそうだったから。
「うん……っ、もう限界だった……っ。毎日パパとママが言い争って……憎み合って……それだけでも嫌で嫌でたまらなかったのに……離婚するからどっちか選べって言われて……家飛び出しちゃったの……」
私は堰を切ったようにずっと辛くて苦しくて寂しかったことを心の中から全部吐き出すように言葉に出していく。
俊哉は私が全部吐き出し終わって涙が止まるまで自分の膝を見つめたまま、ただ黙って傍にいてくれた。
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