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Ⅰ.夢
――東京で夢を掴みたい。
そう思うのは勝手だ。だがそれを口に出すとなると話は変わる。俺の目の前に広がる豊かな空と海と大地が、東京で暮らしたいと発することすら烏滸がましいと思わせてくる。
当然、島の人間だって同じように考えているはずだ。
漁業と農業で成り立つ小さな島で生まれ、大半の子供たちは親を見て育ち、それに倣って同じ道を歩む。途中進学のために島を出る者もあるが、得るべき資格を手に入れた後は、何事もなかったかのように島の生活に戻るのだ。
今俺がしようとしているように、島のためでもなく、確たる理由がある訳でもなく、ただ夢を追って上京したいなど、聞いたこともない。
かと言って島の連中にそれを咎められる筋合いは無い。
でも両親は別だ。
両親は当然のように、家業であるキノコ農家を俺が継ぐものと考えている。例え俺の部屋からギターを掻き鳴らす音が響いてこようが、それはあくまでも趣味として楽器に精を出しているに過ぎず、まさかそれを生業にして生きていこうと考えているなど、想像もしていないだろう。
でも言わなくてはならない。
俺は音楽がやりたい。東京で、音楽で飯を食いたい。
そう、はっきりと。
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