1.プロローグ

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1.プロローグ

 町の氏神さまを(まつ)る神社の裏手。レトロな風情を醸し出している、ゆったりとした古民家が和喫茶おぼろ。一見さんにはわかりにくい場所にありますが、小腹を満たしに顔なじみの常連客が訪れます。  和服姿でサイフォン珈琲を()れているのは、店主の阿澄(あずみ)颯真(そうま)、24歳。二年前に祖母の紗代(さよ)が亡くなり、店を受け継ぎました。  おぼろで働くウエイトレスは二人。  鼻の下を伸ばした男性客に手を握られて、「困りますの! 手、ダメですの!」と必死になっているのが黒髪ツインテールの魅依(みい)。  魅依の手を握る男性客の手を怪力でたやすく外し、「村上さま、おさわりは厳禁ですわ。そういうことをお望みでしたら、お帰りくださいませ」と冷ややかに告げているのが、亜麻色の髪にハーフアップの琥珀(こはく)。  ここだけの話、実はこの二人、魅依は猫又(ねこまた)、琥珀は妖狐(ようこ)というあやかしで、人前では人間の姿に変身しています。  ああ、怖がらないでくださいね。よいあやかしですから、悪さはしません。  和喫茶おぼろは、幽世(かくりよ)現世(うつしよ)が交わる場所。暮れ六つ、午後六時になると現世(うつしよ)から幽世(かくりよ)へ――。  え? 私が何者か、ですか? 失礼いたしました。私は、店主の祖母、紗代でございます。  和喫茶おぼろを、どうぞよしなに。  ※幽世(かくりよ):あやかし(妖怪や霊)の世界  ※現世(うつしよ):人間の世界
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