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そしてボクも、その時初めて彼の顔を真正面から見ることができた。
歳の頃は十二、三くらいだろうか、どちらかと言えば小柄な少年は、その夜空の色をした瞳でまじまじとボクを見つめてくる。
何か、文句でもある?
ボクは再び鳴いた。
瞬間、何の前触れも無く、少年はしゃがみこみ、ボクと視線を合わせてきた。
彼の濡れたセピア色の髪から、水滴がボクにこぼれ落ちてくる。
だから、迷惑なんだってば。
その場から離れようとした時、ボクの耳に、彼の声が飛び込んできた。
「……君も、一人なの?」
その声に、ボクは立ち上がるのをやめた。
そして、改めて彼を見やる。
質素ではあるが清潔な服を着ているので、『宿無し子』ではないだろう。
腰には何故か、年齢にはそぐわない短剣を差している。
けれど、それ以上に違和感を感じたのは、彼の『声』だった。
抑揚がなく、一本調子の……そう、感情が無い声。
首をかしげるボクに、彼は手を伸ばしてきた。
濡れて冷えきった手が、ボクの頭を撫でる。
「俺も、一人なんだ」
濡れた手が、頭から背に伸びる。優しく、ゆっくりと。
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