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「はぁ?ンなワケ無ぇだろ。早くても、後、十年はかかるだろ」
「……だよねぇ……」
昼休み、営業部の方の休憩室でお昼を食べていると、竹森くんが、出先から戻って来たようで、コンビニ弁当を持ちながら、あたしの前に座った。
何だか、話題に詰まってしまい、つい、先ほどの話を本人にしてしまったが――あきれたように、そう返された。
「――でも……頑張ってるってコトでしょ」
あたしが言うと、彼は、一瞬だけ目を丸くし、微笑む。
「……何よ」
「いや、サミーに、そんな風に言われるとはな」
「……別に……そう思っただけ」
「サンキュ。……なら、ご期待通りに目指すかな」
「え」
思わず、まじまじと彼を見てしまった。
――そんな風に、上昇志向があるとは思わなかった。
「……何だよ」
「あ、いや、あの……まあ、頑張って」
「ああ。――振ったコト、後悔しろよ?」
あたしはギョッとして、周囲を見回すが、ほとんど人はおらず、その数人もイヤホンをしてスマホを見ていた。
――だからと言って、安心はできない。
「……ちょっと、会社ではやめてってば」
そう、クギを刺すように言うと、竹森くんは、顔をしかめた。
「何」
「――……あのなぁ……そういう言い方するなって」
あたしは、眉を寄せて、彼を見上げる。
けれど、一瞬だけ、何かを含んだ視線で見つめられ――思わずうつむいてしまった。
――オレ、まだ、お前のコト好きだから。
その言葉を思い出し――気まずさが襲う。
普通は、離れなきゃいけないのに――でも、あたしの事情をすべて知っているから、どうしても、甘えてしまう。
――竹森くんにとって、それが良いコトだとは思えないのに。
「サミー」
「え」
グルグルと考え続けていると、不意に、顔を上げさせられた。
「考えすぎんな。――オレは、結構、このポジ、気に入ってるからさ」
「……竹森くん」
「弱ってると、つけ込むぞ?」
茶化すように言われ、言葉に詰まる。
「――だから、普通でいろよ」
そう言った彼の気持ちが――胸に刺さった。
そして――みんなで一緒に遊園地に行く当日。
――よりによって、雨が朝から降り続けてしまっていた。
悩みに悩んだ服を急きょ調整して、どうにか、カジュアルなカットソーとワイドパンツ、動きやすいヒールの低い靴に落ち着いた。
濡れてもそんなに精神的にダメージを受けないものにしないと、気になってしょうがない。
あたしは、何とか予定通りに、いつもの商業施設の駐車場に向かうと、車に乗った竹森くんにクラクションを鳴らされ、思わず飛び上がる。
「はよ、サミー。ビビッてんなよな」
「お、はよ。……びっくりするに決まってるでしょ!」
竹森くんは、助手席の方を指さしたので、隣に乗り込む。
傘を閉じれば、まあまあ、水滴が零れ落ちた。
彼は、それを受け取ると、助手席の後ろにつけてある傘入れに突っ込みながら言う。
「結構、降ってるよな。どうする、行き先変更するか」
「え」
あたしが聞き返すと、眉を寄せて返された。
「これじゃあ、アトラクションも大して乗れねぇだろ。向こうが、どういう天気かはわからねぇけど」
「――……でも、じゃあ、どうするの?」
「アイツ等に連絡してみるか。たぶん、神林さんなら、繋がるだろ」
そう言って、竹森くんは、スマホを耳に当てた。
どうやら、直接電話して決めるようだ。
「――じゃあ、十時前に、直で」
数分話すと、そう言って通話を終える。
「サミー、やっぱ、行き先変更だ」
どうやら、室内レジャー施設に変わったようだ。
けれど、そこは十時開店。
そして、神林さん達の家と、こちらの、ちょうど間になる。
なので、現地集合に変更したようだ。
「竹森くん、それまでどうするの?」
「ああ、そうだな」
彼は、背を持たれかけさせ、あたしに視線を向けた。
「――デートでもするか」
「え」
一瞬で空気が変わった気がした。
――ああ、ダメだ。助手席に座るんじゃなかった。
後悔は、もう遅い。
竹森くんは、あたしをのぞき込むと、微笑む。
「――なんてな。オレ、朝メシ抜きなんだよ。腹減ってるから、そこ、入っていも良いか」
「え、あ、う、うん……」
何てこと無いように言うけれど――その視線の奥の熱を感じてしまい、上手く流せない。
けれど、それを口にしたら、この関係が壊れそうで――あたしは、黙り込むだけだった。
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