11

3/4
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
「はぁ?ンなワケ無ぇだろ。早くても、後、十年はかかるだろ」 「……だよねぇ……」  昼休み、営業部の方の休憩室でお昼を食べていると、竹森くんが、出先から戻って来たようで、コンビニ弁当を持ちながら、あたしの前に座った。  何だか、話題に詰まってしまい、つい、先ほどの話を本人にしてしまったが――あきれたように、そう返された。 「――でも……頑張ってるってコトでしょ」  あたしが言うと、彼は、一瞬だけ目を丸くし、微笑む。 「……何よ」 「いや、サミーに、そんな風に言われるとはな」 「……別に……そう思っただけ」 「サンキュ。……なら、ご期待通りに目指すかな」 「え」  思わず、まじまじと彼を見てしまった。  ――そんな風に、上昇志向があるとは思わなかった。 「……何だよ」 「あ、いや、あの……まあ、頑張って」 「ああ。――振ったコト、後悔しろよ?」  あたしはギョッとして、周囲を見回すが、ほとんど人はおらず、その数人もイヤホンをしてスマホを見ていた。  ――だからと言って、安心はできない。 「……ちょっと、会社ではやめてってば」  そう、クギを刺すように言うと、竹森くんは、顔をしかめた。 「何」 「――……あのなぁ……そういう言い方するなって」  あたしは、眉を寄せて、彼を見上げる。  けれど、一瞬だけ、何かを含んだ視線で見つめられ――思わずうつむいてしまった。  ――オレ、まだ、お前のコト好きだから。  その言葉を思い出し――気まずさが襲う。  普通は、離れなきゃいけないのに――でも、あたしの事情をすべて知っているから、どうしても、甘えてしまう。  ――竹森くんにとって、それが良いコトだとは思えないのに。 「サミー」 「え」  グルグルと考え続けていると、不意に、顔を上げさせられた。 「考えすぎんな。――オレは、結構、このポジ、気に入ってるからさ」 「……竹森くん」 「弱ってると、つけ込むぞ?」  茶化すように言われ、言葉に詰まる。 「――だから、普通でいろよ」  そう言った彼の気持ちが――胸に刺さった。  そして――みんなで一緒に遊園地に行く当日。  ――よりによって、雨が朝から降り続けてしまっていた。  悩みに悩んだ服を急きょ調整して、どうにか、カジュアルなカットソーとワイドパンツ、動きやすいヒールの低い靴に落ち着いた。  濡れてもそんなに精神的にダメージを受けないものにしないと、気になってしょうがない。  あたしは、何とか予定通りに、いつもの商業施設の駐車場に向かうと、車に乗った竹森くんにクラクションを鳴らされ、思わず飛び上がる。 「はよ、サミー。ビビッてんなよな」 「お、はよ。……びっくりするに決まってるでしょ!」  竹森くんは、助手席の方を指さしたので、隣に乗り込む。  傘を閉じれば、まあまあ、水滴が零れ落ちた。  彼は、それを受け取ると、助手席の後ろにつけてある傘入れに突っ込みながら言う。 「結構、降ってるよな。どうする、行き先変更するか」 「え」  あたしが聞き返すと、眉を寄せて返された。 「これじゃあ、アトラクションも大して乗れねぇだろ。向こうが、どういう天気かはわからねぇけど」 「――……でも、じゃあ、どうするの?」 「アイツ等に連絡してみるか。たぶん、神林さんなら、繋がるだろ」  そう言って、竹森くんは、スマホを耳に当てた。  どうやら、直接電話して決めるようだ。 「――じゃあ、十時前に、直で」  数分話すと、そう言って通話を終える。 「サミー、やっぱ、行き先変更だ」  どうやら、室内レジャー施設に変わったようだ。  けれど、そこは十時開店。  そして、神林さん達の家と、こちらの、ちょうど間になる。  なので、現地集合に変更したようだ。 「竹森くん、それまでどうするの?」 「ああ、そうだな」  彼は、背を持たれかけさせ、あたしに視線を向けた。 「――デートでもするか」 「え」  一瞬で空気が変わった気がした。  ――ああ、ダメだ。助手席に座るんじゃなかった。  後悔は、もう遅い。  竹森くんは、あたしをのぞき込むと、微笑む。 「――なんてな。オレ、朝メシ抜きなんだよ。腹減ってるから、そこ、入っていも良いか」 「え、あ、う、うん……」  何てこと無いように言うけれど――その視線の奥の熱を感じてしまい、上手く流せない。  けれど、それを口にしたら、この関係が壊れそうで――あたしは、黙り込むだけだった。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!