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『華さん、どうした?』  黙り込んだあたしを、青葉さんは心配するように呼ぶ。  あたしは、慌てて取り繕うように返した。 「あ、ううん。……ち、ちょっと、眠くなっちゃっただけ」 『そっか。悪ぃな、夜中に』 「気にしないで。――……声聞けて、うれしいから……」  そう返すと、向こうから、唸るような声。 「青葉さん?」 『……やっぱ、日曜会わねぇ?……可愛いコトばかり言うから、ガマンできなくなってきた』  あたしは、即座にうなづきそうになるけれど、お義母様の事を思い出し、首を振った。 「ダメだよ。……今は、お義母様を優先させるんでしょ」 『……わかってる』  ふてくされる彼が目に浮かぶようで、あたしは、苦笑いが浮かぶ。 「……だから……来週……いっぱい、可愛がって?」  そして、そう、なだめるように言うと、大きなため息で返された。 『……ったく……煽るだけ煽りやがって……』 「我慢してくれた分、頑張るからさ」 『よし、言ったな』 「……で、でも、手加減はしてよ、ね……?」  気合いの入った口調に、一瞬、自分の言葉を後悔しそうだった。  念のため、と、クギを刺すが、 『無理に決まってんだろ』  そう返され、あたしは、やっぱり、自分の言葉を後悔してしまった。  連休の間の勤務は、やっぱり、みんなどこかそわそわしながらだ。  けれど、詰まりに詰まったスケジュールは、それをあっという間に消し去ってしまう。  あたしは、営業部で以前のように伝票を作ったり、配送の手配をしたり、あちらこちらをダッシュで往復したり。  まるで、コレで二、三キロは痩せられるんじゃないかと思うほどだった。  ――いや、そんなんじゃ、もう簡単に痩せないけどね……。  渡された書類をまとめながら、自虐的な思考になる。  年々、代謝が落ちているのか――前より、少し、太ったのかもしれない。  身体が重いというか――何だか、いろんなところがキツい。  肩も凝ってきて、先日のように、ゴキゴキと鳴ってしまう。  ――……もう、そろそろ、アラサーだもんなあ……。  自分の年齢を考え、少しだけへこむ。  でも、あたしよりも上の長島さんや、加治主任、営業事務の皆さんは、そんなコトをまったく感じさせないバイタリティーがあるのだ。  年齢(とし)をただ重ねるだけじゃなくて――どれだけ、身になっているのか、という事なんだろうな。  あたしは、ため息混じりに、書類を綴じたファイルを、壁側の棚に片付けた。 「おう、サミー、コレ急ぎでできるか!」 「竹森くん」  すると、竹森くんが、戻って来るなり、あたしに発注書を手渡してきた。 「加治主任を通してください」  相変わらずの態度に、あきれ半分でそう返すと、顔をしかめて返された。 「……何よ」 「……相変わらず、融通利かねぇな」 「あたしは、今、三課からの手伝いなので」 「ハイハイ」  彼は、苦々しく言うと、戦うようにキーボードを打ち続けている加治主任の元へと向かって行った。 「さすが、佐水さん」  昔と同じ席に戻ると、同じく前に座っている蒲原(かんばら)さんが、クスクスと笑いながら、あたしを見やって言った。  それに眉を寄せると、彼女は気にもせずに続ける。 「竹森くんの頼み、あれだけバッサリ切れるのは、佐水さんだけよね」 「……そうですか?」  いつものコトながら――竹森くんは、突然、しかも、当然のように、頼んでくるのだ。  でも、あたしだって、ヒマじゃない。  それに、彼を優遇するつもりなんて、これっぽちも無いのだから、当然だと思うんだけど。 「そうそう。あたし達も断るけど、あんなにバッサリとはできないわ。彼、稼ぎ頭だもん」  木場(きば)さんがそう続けるので、あたしは目を丸くする。 「ああ、佐水さんは実感無いかぁ。竹森くん、もう少し実績積んだら、もしかしたら、最短で昇進するんじゃないかって言われてるわよ」 「え」  ――ウソ。そんなコトになってんの、竹森くん。  あたしの反応に、笑いが広がる。  それに気づき、思わず眉を下げてしまった。
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