明日に備えて

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明日に備えて

電車が動き出す。浮かれた心にはガタンゴトンという振動がより一層に心を弾ませる。ポケットから左手を出し、先程までの柔らかい感触を思い出した。 「ん?」 思わず声を出してしまった。 「ない!」 左手首に巻かれていたはずのロレックスの時計がない。電車に乗る際、時間を確認すると確かに手首にあったが…。落とす訳はないし、どこに行ったのだろうか? 左手…。いや、違うぞ。さっきの女性が抜き取ったんだ。哀しいことに西野は全く気が付かなかった。手を揉まれているうちに時計を盗まれてしまったことに。まさにゴッドハンドだった。 再び、ポケットに手を入れた。すると、ポケットに1枚の紙が入っていることに気がついた。そこには『今日はありがとう。またね』と書かれていた。 しばらく考えた後、西野は来るはずのない明日のため、新しい時計を買いに行くことに決めた。
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