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高校の視聴覚教室で、僕は、パニックに陥る寸前だった。
心臓が激しく震える。だが、それと同じくらい、体全体も激しく振動している。
僕の隣で、一年生の神谷ユキもまた、激しく震えていた。
「ああッ! なんすかどういうことですかッ! どうして私の手をつかんで放してくれないんすかッ! 私が一年だからって舐めてんですかーッ!」
「ち、違うッ! 僕は放そうとしているんだッ! だが、手が離れないんだアーッ!」
神谷ユキは、長い髪をまぶしい金髪に染め、ネイルをし、ピアスを開け、左手の中指にタトゥまで入れている女子だ。
普段、年上とはいえ黒髪眼鏡で美容院に行ったこともないおとなしい性格の僕とは、あまり親しくはしていない。
しかし今、僕の手の甲は、神谷ユキの手の甲に、ピタリと吸いつけられるようにして離れない。
手のひらではない。甲同士である。普通に考えて、つかめるはずがない。
だが事実、僕の手の甲は、まるで磁石のように神谷ユキの手の甲をとらえて放さなかった。
「私、お、男にこんなに強く手を握られたことはそうないっすよッ! ヒアアーッ!」
「握ってないッ! よく見ろ、握ってないだろ! 妙な言い方はやめろッ!」
「で、では放してください! そちらから手を放してくださいよオーッ!」
言われるまでもなく、僕もそうしたかった。
これでは、あらぬ誤解を招いてしまう。
なのに、手がどうしても離れない。
どうしてこんなことになったのか。
話は、五分前にさかのぼる。
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