僕、おかしくなったんですかね

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僕、おかしくなったんですかね

ハルが自宅に戻ってきた。 すぐにタカに連絡しようと、メール画面を開く。 「実家に帰って、兄との思い出の物を持って帰ってきました。そのことでお話ししたいことがあ……」 文字を打ち続ける指が止まる。 タカにCDプレーヤーのことを話そうとしたが、その前にもう一度自分で試してみようと思い、途中まで作成したメールを下書きに戻した。 たまたまかもしれないし。そう思いリュックからCDプレーヤーを取り出す。 電源を入れ、再生ボタンに指を近づけると、やはり痺れて力が全く入らない。 「……なんなんだよこれ」 おかしいのは指だけでなく、ハルの中で蠢く大きな違和感だ。 押しちゃいけないと、もう1人の自分が必死に抵抗するような、はっきりとした違和感。 ハルの勘はたいていあたる。違和感も勘へと繋がる感覚の一種だ。 再生ボタンを押さないほうが身の為な気がする、そんな勘が働いていた。 「多分、押すなってことなんだろ」 けれどハルは、違和感を無視しボタンを押した。 カチッと押した感覚が指先に集中する。 中のCDが動き出し、繋がれたイヤホンの先から微かに音が漏れ出す。 ゆっくり耳に近づけた瞬間、強い耳鳴りがハルを襲った。 「はあ!?」 あまりに大きな、キーンとする耳鳴り。 慌ててイヤホンを離し、カチャンっとイヤホンがテーブルに打ちつけられた。 そして再び耳に近づけようとした瞬間、今度は激しい頭の鈍痛に襲われた。 「は……は?」 右手でこめかみを触ったまま、力が抜けるように左手からイヤホンが落ちた。 「いっ……てぇ。何これ……」 すぐにタカにメールを送ろうと思ったが、急激な疲労感に襲われ、そのままテーブルで眠ってしまった。 2時間後。 ブーっとスマホの振動で目を覚ました。 タカからのメールの着信だった。 「お疲れ様です。実家帰るの、いつ頃でしたっけ?」 メールにはそう書かれていた。 すぐに返事をしようと思ったが、明日また音楽を聞いて同じ状況になったらタカに相談しよう、そう思った。 一連の出来事を文書にし、また下書きに戻す。 タカに返事をせずに、そのままベッドに行き眠りについた。 そして翌朝。 起きてからも、頭に少しの鈍痛が残っていた。 とりあえずシャワーを浴びコーヒーを淹れる。 一息ついて、またCDプレーヤーを取り出す。 再生ボタンをカチっと押し、音が漏れ出したイヤホンの先をゆっくりと耳に近づける。 結果は、やはり昨日と同じだった。 激しい耳鳴りと頭痛に襲われた。 これは絶対に何かある……そう思い、下書きのメールをタカに送ろうとスマホを持った瞬間、タカから電話がきた。 「……もしもし」 「ハルさん?」 「タカさん……」 「……」 「タカさん……あれ?あ、今メールしようと思ったんですよ。それで、あの……」 「大丈夫ですか?」 ハルは、タカの声を聞いて頭が真っ白になった。 「あ……れ……、すみません。タカさんの声聞いたら安心しちゃって。ははは」 ハルの声が震えていた。 「タカさん、すみません。このあとすぐメール送ります。昨日のことも報告しないとだから、一旦電話を切りま……」 「待って、切らないで」 「……」 「このまま話して」 「あ……いや、あの……僕、なんか変で」 「……」 「兄との思い出の……音楽……CDを……あれ……すみません、うまく説明ができない」 「いま家にいるの?」 「はい」 「行きますね」 「え、あ……はい。すみません……来て欲しい……です」 タカはすぐに電話を切り、ハルの家へ向かった。
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