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突然のばぶ
しまった……。ばぶに、なってしまった……!
そう気が付いても、もう遅い。
「……ばぶ」
ばぶしか……言えなくなってる……っ!
近年突如現代人に現れ始めた、今まさに世間を騒がせている【ばぶ】。有能で見目麗しい男にこぞって訪れた突然のばぶショック。
「……ばぶぅ……」
このばぶを発症すると、ばぶ語しかしゃべれなくなるのだ。
大体は1ヶ月に1度訪れ、2~3日で治る。時には何らかの心因性のショックでばぶショックを発症することもある。
しかし、これはただ待っていれば治るわけではない。このばぶ化をよりよく乗りきるには、もうひとり……【ままん】と言う存在が必要なのだ。ままんと言っても、それはお母ちゃんのことではない。因みにお母ちゃんは……おかんと呼ぶ。
ままんは大体がままん味溢れる受け男子。ばぶはままんにたくさんかわいがってもらい、ままんの雄っぱいをちゅぱちゅぱすることで快適にばぶ期を終えられるのだ。――――――――そう、ままんって雄っぱいが出るんだよ。そのメカニズムは未だに解明できてはいないけれど、ただ、ばぶに選ばれると雄っぱいが出る。
こんな少子高齢化社会にいいのかそれはとも言われるが……ばぶは優秀で社会にとってもなくてはならない存在だし……ばぶとままんという二次性が認められたことで、男性同士の恋愛への偏見も少しは寛容になった……かな?
――――――しかし、それでも。
「ばぶ……」
俺、箭田月人は受けなんだ。ネコなんだよ。
ばぶなのに……攻めじゃないんだ……!
そりゃぁままんに出会ったら分かるし、あふれでるままん味を感じちゃうけど。
でもいく先々のままんは受け、受け、全て受け――――――っ!
「ばぶぅ……」
だから俺は、シングルばぶのための抑制剤を飲んでこのばぶ期を過ごすしかないわけである。
しかし、そうは言っても抑制剤に頼りすぎればそれはそれでばぶにもよくない。
本当なら経験豊富なままんによしよししてもらうだけでもいいのだが……いかんせん俺は受けだからなぁ……。同じ受けからよしよしされるのはちょっと変な気分がしちゃうのだ。
「ばぶ」
今回もひとりでばぶ期を過ごさなきゃ。
俺だって……本当は大好きなままんと過ごしたいのに。
でも、それもかなわないと分かってはいるのだ。
だから大人しく家にばぶ化抑制剤をとりに帰宅の途についた俺だが。
――――――家が……なくなっていた。
「ばぶ……っ!?」
更地になっていたんだ。一週間出張で留守にしていた間に……何が……!?
カツンと足元で弾かれた石の下に……手紙?
さっと拾い上げれば……。
【治田部長はあんたなんかに渡さない……!これは復讐よ……!BY続木ミカド】
――――――なんっだこのイミフな手紙はぁ~~~~っ!?これはアレか!?部長の秘書の続木さんがやったのか……!?確か実家は資産家だったはずでは。つーか、ひとが留守の間に家更地にするとかどーいう神経してんの!!
「ばぶぅ……」
あぁ……ボロ屋だったとはいえ、亡き両親との思い出の家が……。
思い出の家具やら品すらも失ってしまうだなんて。
つーか法律的にダメだろ完全にアウトだろ~~っ!?確かに続木さんは治田部長に気があったようだけど。そもそも治田部長はばぶだし……!俺と部長はばぶ仲間なのに……!
そもそも復讐とかされる覚えもないんだが。
ほんと意味が分かんない。
「ばぶ」
今夜どうしよう……。職場……職場行くか。確か仮眠室があったはず。
ホテルに泊まるにしても……ばぶしかしゃべれないからなぁ……。
それに抑制剤もない。抑制剤は……病院に行けばもらえると思うけど、この時間じゃぁさすがにやってないだろう……。
「ばぶぅ」
泣くな泣くな、俺。しかしやっぱり俺もばぶなのだろう。……ままんと言う存在が恋しい……。
「ばぶ」
いや、ばぶには攻めが多いように、ままんには受けが多いのだ。そんな簡単に攻めばぶなんて見つかるはずがない。
職場……行くか。
「……ばぶ?」
その時、目の前に不自然に並ぶ男たちの姿を見つける。え……何……?何かすごく、気持ち悪い。
「おいおい、まさかのばぶになってんじゃねぇか」
「しかもばぶってーんのは優秀だから高く売れるだろうなぁ」
「ミカド坊っちゃんも喜ぶぜ」
それって、続木さんのこと……!?
まさか俺の帰りを見計らって襲って……人身売買に手を出す気か!?
くそ……っ、ばぶは身体能力も秀でたハイスペックとは言え……出張帰りの疲労困憊、精神的ショックとか、長らく抑制剤に頼りきってきた負担がモロに来ている状態で……複数の男を相手にするのはさすがに……。いけるか……?
そう身構えた時だった。
「何してんだ、てめぇら……!」
え、誰?
――――――振り返ったことを、後悔した。
いや何、その男性が強面目付き鋭いせいでも、いかにもな派手な柄物シャツに高級スーツを着ていたからでもない。
その男は……。
「まみー……」
ついつい、口から漏れ出てしまった言葉に慌てて口を塞ぐ。
ばぶは自分のままんのことを【マミー】と呼び慕うのだ。
そう、この男は……。
「ハハ……っ、マミーだとさ!ままん恋しいんでちゅかね、ばぶちゃぁんっ!?」
いや、そのネタは聞きあきたし、要らないのだけど。
「そうか……お前が俺の……ばぶちゃんか」
「ばぶっ!?」
強面な男……いや強面ばぶちゃんがそう告げる。その……それは……。そう、なのだけど。俺受けだし……。いやでも目の前の男は……受けには見えないが、もしかしたらギャップ萌え受けままんかもしれないじゃんんんんっ!!
「ならば……ばぶちゃんを守るのがままんのつとめだろぉがっ!!」
「え……?あんたが、ままんなのか?」
「え、うそぉっ!?ままんってかわいらしいみためって……えっ!?」
戸惑う男ども。まぁ確かにままんに抱くほんわか柔らかいイメージとは違う凶悪な顔をしている。さらにはオールバックっていうありがちな……。特徴的なのは左右一房ずつ白っぽいメッシュが入っている点だろうか……?
「ごちゃごちゃ言ってる暇あったら歯ァくいしばれやオラァァァッ!!!」
「マミーっ!?ばぶ!?」
解説してる間にままんが大暴れえぇ~~っ!あうぅ、ついつい叫んでしまったが……。
『ぎゃあぁぁぁぁ――――――――ッ!!!』
ばこんっ
どかっ
どさっ
ひゃーっ!?ならず者3人衆が相次いでままんに倒されちゃった!?てかこのままんめちゃ強~~っ!!!
「ふん、手応えねぇな。おい!コイツらの処理はやっとけ!!俺のばぶちゃんに手ぇ出したんだ!ただじゃぁ済まさねえぇぇっ!」
ひぁうっ!?『俺のばぶちゃん』……って。かあぁと頬が火照るが……強面ままんの言葉に『おっしゃぁぁぁアニキいいぃぃ』と湧いてでるこりゃまた柄悪そうな男どもぉっ!?
闇夜に乗じてばぶ期なばぶを集団で襲おうとする男どもには慈悲の欠片もないが……あのひとたち、どうなるのだろうか?絶対ろくな目に遭わなさそうなんだけど。
「さ、俺のばぶちゃん」
「ばぶっ!?」
気が付けば強面ままんが俺の目の前に……っ!?
「俺は百眼鬼長流。長流マミーだ……!さぁ、一緒に行こうか」
そう言うと、強面ままんが俺を軽々と抱き上げる。た、確かに俺は華奢なほうだけど!強面ままんの方が長身で鍛えてもいそうだけども……これお姫さま抱っこおぉぉっ!?
「ばぶっ」
ちょっと、恥ずかしいんだけど!?
「ばぶっ、マミーっ!」
ついで出るのはやはりばぶ語。うぅ……やっぱりばぶ化は不便だよ……。
「大丈夫ですよ~~、ばぶちゃん。マミーがついてますからねぇ~~」
くうぅっ!強面ままんの口からそのセリフが飛び出すのは何だか違和感がある気もしながらも……何故かそれが心地よい。それにこの腕の中も……。
「ばぶ……ばぶぅ」
「あぁ、かわいいな。俺のばぶちゃん」
「ばぶ……っ」
うぐ……っ。強面なのに、何と言うか……ぶっちゃけ言って。
「ばぶぅ……マミー、ばぶ」
めちゃくちゃタイプなんだよ強面ままん~~っ!
俺はばぶ期であることをいいことに……そう告白してしまったのは……内緒だが。
あれよあれよと運転手付きの黒塗りの車に乗せられ、着いたと言う立派なお屋敷の前について思い出した。
いや、ついつい考えないようにしてたのだが。
「若のお帰りだぁっっ!!」
『お帰りなさいやし、若……っ!』
ひえぇっ!?ずらっと並んだ強面たちに出迎えられるのはもちろん……。
「あぁ、今帰った。このばぶちゃんは俺のばぶちゃんだ。よろしく頼むぜ」
強面な俺のままん~~っ!
そう……そうだった。この強面ままん、明らかにその筋のひとなんだよおぉぉっ!!!
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