さよなら ①

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さよなら ①

晶は神谷の家へ行き部屋に通されると、唐突にある事を神谷に告げた。 「え……………?」 神谷は晶からの言葉が信じられないと、目を見開き…… 「なんでなんだよ!」 神谷は悲しみの表情になり、そしてすぐ怒りに震える。 「別れてくださいって言ったんです…」 晶の冷たい声が静かに部屋に響く。 「だから、なんで⁉︎⁉︎意味わかんねー!」 神谷は晶の両肩に掴みかかる。 「俺…好きな人がいるんです」 「!!誰だよそれ!!」 晶の両肩を掴む神谷の手に力が入る。 「俺、先輩が記憶を失う前から好きな人がいるんです。でも、その人他に好きな人がいて、俺の方は見てくれないって知ってるんです」 ですよね、先輩。 「そいつと俺たちが別れるのと、どう関係があるんだよ!」 神谷の怒りは収まらない。 「もう、辛いんです。先輩に嘘つくのが…。だから、終わりにしたい。それだけです」 「納得いかない!」 「先輩に納得いってもらおうとは思ってません」 晶の声はいつまでも冷たい。 「じゃあ…」 神谷が何か言いかける。 ごめんなさい、先輩。 俺、今から酷いこと言います。 先輩の好意を無駄にする、一言を… 「俺、先輩からお礼貰ってませんよね」 「え?」 神谷は晶に虚をつかれる。 「そのお礼、今いただきたいんです」 「はぁ?」 神谷は眉間をよせ、怒りが爆発しそうだ。 「先輩からのお礼です。俺と別れてください」 「晶!お前!」 バンっと神谷が晶をベットに押し倒した。 「認めない!」 「先輩が認めてくれても、認めてくれなくても、俺は先輩と別れます。先輩に言ったのは……」 言ったのは……。 俺のケジメだ。 自分勝手なケジメだ。 クズで、最低な俺が、どれだけ最悪なことをしたか、忘れないように… 「感謝の気持ちです。大切にしてくれてありがとうございました」 晶が神谷を押しのけようとすると、 え? ぽたぽたと晶の顔に雫が落ちてくる。 「先輩…、泣いてるんですか?」 下唇を噛み締めながら、涙を落とす神谷の頬を晶が触ろうとしたが、途中でやめた。 「怒ってる。怒りすぎて涙が出てるだけだ」 「…」 「なぁ、アレは嘘だったのか?」 「…」 「俺の事、何度も何度も『好き』だって言ったのも、『俺がいないとダメな身体にしてください」って言ったのも、全部…」 神谷の切なく苦しい声が、 震える体が… 悲しみが神谷を覆い尽くしていく。 !!!! 嘘なはずないじゃないじゃないですか‼︎ 全部本心です‼︎ 本心で、心から零れ落ちた言葉達。 でも今は…… 「はい。嘘です」 ダメだ…… 俺の心が死んでいく… 何も感じなくなっていく。 冷たくて、冷たすぎて、痛くて、激痛が走る。 でもいいんだ。 心が、気持ちが死んで、これから先、何も感じなくなっても、先輩との思い出があれば、それで……。 「俺の好きな人と、先輩を重ねていました」 「!!」 「今日はそれだけ言いに来ました…」 「!!」 「今までありがとうございました。さよなら、先輩」 絶望なのだろうか、固まり動けなくなってる神谷の隙間をすり抜け、カバンを取り部屋を出て行こうとした時 「わ!」 晶の体が宙に浮くと、ドサッとベットに押し倒される。 「晶、俺なしではダメな身体になってるんだろ?思い出させてやるよ」 「…ぅん、んん、んぅ…っ」 神谷は晶の唇を奪うと、舌を口内に入れる。 いつもは優しく、壊物を扱うように慎重に慎重にするキスも、今日は激しいと言うより無理矢理だ。 息をする間もなく、苦しくなった晶が神谷から離れようとすると、さらに激しく濃厚なキスをする。 朦朧とする意識の中、晶の身体の力は抜け押し倒されたベットに身体を沈ませる。 「なんでだよ…晶…」 「…」 「なんであんなこと言うんだよ…」 覆い被さる神谷の涙が、晶の頬に落ち続ける。
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