70人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
さよなら ①
晶は神谷の家へ行き部屋に通されると、唐突にある事を神谷に告げた。
「え……………?」
神谷は晶からの言葉が信じられないと、目を見開き……
「なんでなんだよ!」
神谷は悲しみの表情になり、そしてすぐ怒りに震える。
「別れてくださいって言ったんです…」
晶の冷たい声が静かに部屋に響く。
「だから、なんで⁉︎⁉︎意味わかんねー!」
神谷は晶の両肩に掴みかかる。
「俺…好きな人がいるんです」
「!!誰だよそれ!!」
晶の両肩を掴む神谷の手に力が入る。
「俺、先輩が記憶を失う前から好きな人がいるんです。でも、その人他に好きな人がいて、俺の方は見てくれないって知ってるんです」
ですよね、先輩。
「そいつと俺たちが別れるのと、どう関係があるんだよ!」
神谷の怒りは収まらない。
「もう、辛いんです。先輩に嘘つくのが…。だから、終わりにしたい。それだけです」
「納得いかない!」
「先輩に納得いってもらおうとは思ってません」
晶の声はいつまでも冷たい。
「じゃあ…」
神谷が何か言いかける。
ごめんなさい、先輩。
俺、今から酷いこと言います。
先輩の好意を無駄にする、一言を…
「俺、先輩からお礼貰ってませんよね」
「え?」
神谷は晶に虚をつかれる。
「そのお礼、今いただきたいんです」
「はぁ?」
神谷は眉間をよせ、怒りが爆発しそうだ。
「先輩からのお礼です。俺と別れてください」
「晶!お前!」
バンっと神谷が晶をベットに押し倒した。
「認めない!」
「先輩が認めてくれても、認めてくれなくても、俺は先輩と別れます。先輩に言ったのは……」
言ったのは……。
俺のケジメだ。
自分勝手なケジメだ。
クズで、最低な俺が、どれだけ最悪なことをしたか、忘れないように…
「感謝の気持ちです。大切にしてくれてありがとうございました」
晶が神谷を押しのけようとすると、
え?
ぽたぽたと晶の顔に雫が落ちてくる。
「先輩…、泣いてるんですか?」
下唇を噛み締めながら、涙を落とす神谷の頬を晶が触ろうとしたが、途中でやめた。
「怒ってる。怒りすぎて涙が出てるだけだ」
「…」
「なぁ、アレは嘘だったのか?」
「…」
「俺の事、何度も何度も『好き』だって言ったのも、『俺がいないとダメな身体にしてください」って言ったのも、全部…」
神谷の切なく苦しい声が、
震える体が…
悲しみが神谷を覆い尽くしていく。
!!!!
嘘なはずないじゃないじゃないですか‼︎
全部本心です‼︎
本心で、心から零れ落ちた言葉達。
でも今は……
「はい。嘘です」
ダメだ……
俺の心が死んでいく…
何も感じなくなっていく。
冷たくて、冷たすぎて、痛くて、激痛が走る。
でもいいんだ。
心が、気持ちが死んで、これから先、何も感じなくなっても、先輩との思い出があれば、それで……。
「俺の好きな人と、先輩を重ねていました」
「!!」
「今日はそれだけ言いに来ました…」
「!!」
「今までありがとうございました。さよなら、先輩」
絶望なのだろうか、固まり動けなくなってる神谷の隙間をすり抜け、カバンを取り部屋を出て行こうとした時
「わ!」
晶の体が宙に浮くと、ドサッとベットに押し倒される。
「晶、俺なしではダメな身体になってるんだろ?思い出させてやるよ」
「…ぅん、んん、んぅ…っ」
神谷は晶の唇を奪うと、舌を口内に入れる。
いつもは優しく、壊物を扱うように慎重に慎重にするキスも、今日は激しいと言うより無理矢理だ。
息をする間もなく、苦しくなった晶が神谷から離れようとすると、さらに激しく濃厚なキスをする。
朦朧とする意識の中、晶の身体の力は抜け押し倒されたベットに身体を沈ませる。
「なんでだよ…晶…」
「…」
「なんであんなこと言うんだよ…」
覆い被さる神谷の涙が、晶の頬に落ち続ける。
最初のコメントを投稿しよう!