バカップルとラブホテル

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「……んー」 不意に喉の渇きを覚えて、眠っていた藤次は重い瞼を開ける。 「どこや…ここ…」 見知らぬ天井をぼんやり眺めていると、軽やかな寝息が横から聞こえてきたので身体を起こしてみると、そこにはスヤスヤと気持ちよさそうに眠る、裸身の絢音。 「せや…ラブホに泊まったんやっけ…」 部屋に散乱した衣服と、ゴミ箱に捨てられたティッシュ。二回分の使用済みコンドーム…なにより、乱れた絢音の長い髪の毛が、先程までの情交の激しさを色濃く残していて、藤次は僅かに赤面する。 「久しぶりやったもんな…会うの…」 小さく言い訳してベッドに横になり、絢音の寝顔をまじまじと眺める。 「可愛いなぁ〜」 人形のような長い睫毛と、小さな鼻と唇。桜貝色の爪。白い滑らかな肌。 今まで枕を交わしたどの女性より、愛らしくて愛おしい…可愛い恋人。 頬にかかった髪をそっと耳に掛けてやると、フッと、絢音の瞼が開く。 「ん…」 ぼんやりとした目で自分を見上げる絢音に、藤次はすまなさそうに眉を下げる。 「すまんのぅ…起こしてしもうたか。」 「とーじ…さん?」 「うん。」 掠れた声で名前を呼び、大きく息を吐いて、絢音はシーツに突っ伏す。 「どないした?」 「かった…」 「ん?」 不思議そうに自分を見つめる藤次に、絢音は少し恨めしそうな顔で、彼を見つめる。 「藤次さん…今日、激しかった。…私、止めてって、何度も言ったのに…ずっと…だから、私…何度も…」 頭から湯気が出てるのかと錯覚してしまいそうなくらい赤くなっていく絢音につられて、藤次もみるみる赤面する。 「す、すまん…久しぶりやったしその…絢音可愛いから…せやから、歯止め効かんくて…そやし、ごめん、な?」 「うん…」 頷く絢音の頭を優しく撫でて、藤次は喉の渇きを思い出す。 「なんか、飲むか?」 「うん。」 「ほんならお湯、沸かそか。」 言って、ベッドの下に捨て置いてたシャツを羽織り、下着を履いて、藤次はテレビの横にあった給茶のセットを手に取る。 「コーヒー紅茶、煎茶かぁ〜何がええ?」 「紅茶…」 「よっしゃ!ワシは…コーヒーにするかのぅ…」 手早く電気ケトルに水を入れて沸かし、ティーバックを入れたカップにお湯を注いで、ベッドでその様を見つめる絢音に渡すと、彼女は黙ってそれを受け取る。 「どないした?ミルクとか、いるんか?」 「てる。」 「は?」 素っ頓狂な声を上げる藤次を、絢音はじとりと見つめる。 「藤次さん…慣れてる。こーゆーとこ、よく来てるんだ…」 「なっ…」 ギクリと肩を震わせる藤次。 その様を見て、絢音はポツリと呟く。 「いたんだ。そーゆー人。そうだよね。藤次さん、モテるもんね。」 「か、過去や過去!今はお前、一筋や!!他の女なんて、イモやカボチャと同じ…なんも感じん!」 必死に取り繕う藤次に、絢音はクスリと笑う。 「ごめん。ちょっとだけ、藤次さんの過去に、ヤキモチ妬いてみた…」 「絢音…」 ごめんねと、悪戯っぽく笑う彼女を見て、藤次はホッと胸を撫で下ろす。 「(言えへん…言いよって来る女、片っ端から食ってたやなんて…口裂けても言えへん。)」 司法修習生時代から、新米検事として地方へ赴任していた20代の頃は、自慢ではないが、人生のモテ期だった。 一夜限りから真面目な交際まで、とにかく女には不自由しない生活だった。 女なんて、掃いて捨てるほどおる。それが口癖だった。 だから正直、一人の女性にここまでのめり込んだのは初めてで…自分にもまだ、こんなピュアな部分があったのかと気付かされる毎日で… なにより、身体の相性も心の相性もぴったりな…愛しい女性に出会えて、自分は今、充分満たされてる。 だから… 「今もこれからも、絢音が一番…やからな。」 「えっ?」 不思議そうに自分を見つめる絢音にそっと笑いかけ、藤次はバスルームの扉を開く。 「おー。風呂めっちゃ広いしキレイやん。絢音、一緒に入るか?」 その問いに、絢音はみるみる赤くなる。 「は、入りません!」 「大丈夫やて。泡風呂にしたるから。楽しいで?せやからほら、おいで。」 着ていたものを脱ぎ、笑って手を差し出すと、シーツを身体に巻き付けて、おずおずとやって来る絢音。 「裸…ジロジロ見ない?」 「そら無理やわ。風呂やもん。見てまうて。」 「じゃあ…やっぱりやめる。恥ずかしい…」 言ってベッドに戻ろうとする絢音を後ろから抱きすくめ、藤次は耳元で妖しく囁く。 「さっきまで、もっと恥ずかしい事、してたやろ?今更、恥ずかしがりなや。」 「っ!」 真っ赤に染まった絢音の、シーツを持つ手を取ると、シーツは音もなく床に落ち、白い裸体が露わになる。 「今夜はずっと…離さへんからな。」 ほな行こかと囁き、2人は風呂場の奥へと、消えて行った。 秋の夜長は、まだまだこれから…
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