小六、過去7

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小六、過去7

 翌朝、朝メシもそこそこに学校へと急いだ。佐倉の下駄箱がない。教室を見ても佐倉の席やロッカーは綺麗さっぱりなくなっていた。職員室で佐倉のことを尋ねたら不思議な顔をされ、まだ寝ぼけてるのかと心配された。クラスメイトに佐倉の話をふってみても、結果は同じ。晴斗ですら「知らない」と言うではないか──。  何がなんだかわからないが、佐倉はどうやらこの世界から消失してしまったらしい。俺以外のすべてから。  佐倉はきっと、「おかえり」と迎えてくれる場所に帰ったのだ。『雪のひとひら』みたいに。  そう思うことで「すべては俺の妄想だった」という疑いを打ち消すように、俺はただただ雪とともに消えた少女のことを思った。  さすがに図書室の本をそのまま自分の物にするわけにはいかない。でも俺は佐倉がいた証であるその本をどうしても手放したくなくて、自分の小遣いを持って小さな書店で『雪のひとひら』を取り寄せ、図書室の先生に持って行った。 「勝手に借りて、失くしてごめんなさい。弁償します」 「あらあら。つい先日この本探しに来た子が残念がっとったし、きっと喜ぶと思うわ。受け取らせてもらうね」 「それいつですか?!」 「うーん、先週の火曜か水曜かねぇ」  佐倉が消えた後、この本を探しに来た人がいる。もしかして、佐倉──? 「この本探しに来た子って……」 「時々来る男の子よ。あの、学級委員の。今野晴斗くん」
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