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花、震える
雪解けの水がちらちらと流れる音を聞きながら神社でほっとレモンを口にする。穏やかな放課後の時間。そろそろあいつは来る。
ふわりと花の匂いがした。なんの花かは分からないけど嗅いだことのある匂い。間違いなく花の匂い。
目の前にすとんと着物を着た少年が現れる。
「優吾、今日も来たのか?」
「だって桜に会いたいじゃん」
少年の名前が桜だと知ったのはいつだろう。記憶もないくらいの幼いころから知っているはず。最近は友達とも遊ばずに桜のもとに来るせいでクラスじゃ変人扱いされてるけど。
「桜、差し入れ。ほっとレモン」
コンビニで二本買ったほっとレモンの一本を桜に渡す。
「無駄遣いするなと言うのに。ありがたく頂戴する」
石畳に並んで座って二人でほっとレモンを口にする。作品が何者なのかは分からない。ただここに来ると会える。ここんとこ雪が続いて来れなかったけど、久しぶりの晴れなんだ。
「今日は何する?」
「あれをやろう。前にやったリバーシとかいうやつ。あれはまだ優吾に勝てておらん」
「桜は負けず嫌いだよなぁ。弱いくせに」
「そんなことはないぞ。私はすごいんだ。色んな子たちと遊んで勝ってきたからな。かくれんぼなど負け知らずだ」
「……かくれんぼはいいよ。勝てないもの」
「ふふん。相手の土俵に合わせて勝つのが何より嬉しいのだ」
ランドセルに忍ばせていた小さなリバーシを広げて勝負を開始する。はじめてリバーシで対戦したとき、桜は懐かしいと言っていた。三十年ぶりだとか。よく分からない存在だから、よく分からないことも言う。僕にとって桜の正体は何だっていいけど。ただ気の合う友達。それだけでいいじゃん。
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