Chapter3 Smoke on the water

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第23話 すさまじい声を立てながら  「ネタが分りゃあ、こっちも戦いやすいぜ!」 ウォルノのフェイントと見切りが、5機1部隊の敵地上部隊を鉄クズに変える。 「ジェゴ部隊、大丈夫か……ってオイオイオイ!」 ウォルノが、分断されていたジェゴ部隊を救う頃には時既に遅し。 ビスクドールの搦手に追い詰められ、既に1機がダルマにされていた。 肩口から胴まで斬られている……パイロットはおそらく既にビームセイバーの熱で焼かれた後だ。 「こちらウォルノ、お前さんら名前は?」 「リン・ハック!」 「カルジ・ネルーダです」 「プレディ・ローソン」 3人は各々、気丈に振る舞いながらも応答する。 今にも割れそうな薄氷のような強がりが内包されている。 「よーし、リン・カルジ・プレディの順にコールサインはハスキー1,2,3だ! ハスキーはなァ、氷の大地も前だけ見て進む犬だぜ!! 今はお前らも前だけ向け!!」 「「「はい!」」」 ウォルノの激励に、一寸前までの弱気な声に力強さが籠る。 「全部潰そうとするな! 「いくぜお前ら、目標はカンナギに飛び乗ること! 命令はたった一つ、『死ぬな』」 了解、はい、ラジャーと3人バラバラの声が返ってくる。 チームワークもあったもんじゃねェな……。 ウォルノは地上よりも激しく弾幕が飛び交う空を見上げる。 「ヒヅル、お前らも遅れるんじゃあねェぞ!」 ウォルノたちは戦艦までの障害物を薙いでいくのだった。  「くっっ!北西の敵がまだかなり多い! 僕たちが空を切り開かないと!ターゲット確認…!」 ヒヅルは背部のビーム砲を脇下を通して構える。 「行けェーッ!!」 ビームカービンとともに細かく乱射して、バーロック達をがむしゃらに撃ち落とす。 「やればできるじゃない……キャーシャ隊、北西方面の敵機をやるわよ。 各機ディセプション・ジャマー起動!」 全機がジャマーを起動する。 「レーダー妨害後に、クローとクナイで確実に敵を減らして! ただでさえ長期飛行は不可能な機体……海に真っ逆さまはやめてね!」 「フィリス隊長、了解!」 ジャミング電波による不可視性に優れ、猫のような爪で一閃する。 妖怪・火車の名を関するだけある。  強い!機体特性をフルに活かしている! 対して僕はアマテラスを使いこなせているのか? 自身の意志に対して、実力が追いついていないことに、手汗がじわりじわりと滲む。 「今は目の前のことに集中して!今やるべきは何?」 フィリスが通信を介して激励を飛ばしてきた。 が、耳が言葉を捉えようとも、脳は適切に処理はしていない。  「目の前だけ、目の前だけ……」 バーロックのショットガンと突撃機銃を縦横無尽に避けつつ、ビームブーメランによる牽制を飛ばす。 背後ではカンナギが速度を上げて、ワグテールを全方位に撃ち続ける。 ハリネズミのような弾幕の前に、敵の数と脅威は少々薄れたらしい。 そろそろ退却しないと、乗り遅れる!  「キャーシャ各機!飛行はそろそろ限界よ! 着艦準備!残りは艦上から細かく牽制! あなた達の退却まで殿は務めるわ!」 フィリスは部下の着艦に向けて、戦線維持を続ける。 「あなた……いえ、ヒヅル君。 先ずはカンナギを逃がして、共和国領に届けるのが最優先。 あまり艦から離れず、近づいてくる敵だけリタイアさせれば……」 フィリスがそこまで言いかけた時、オレンジの閃光が2人を分かつ。  「「なんだ!?」」 その様子はカンナギモニターにもありありと映っていた。 「何、今のは!?」 「お次はなんだこらァ!」 ビスクドールズをぶん殴るウォルノと、ジェゴ部隊の眼にも橙の光は目に焼き付いた。 即座にチョウがレーダーを確認する。 「艦長!新しい敵ネ!その数……え、2機?!」 驚嘆の色をした報告が、ドック内に響き渡った。 「増援か。腕に自信があるのだろう」 ヨシヒロが舵を取りつつ、短く呟く。  遠くから空を飛ぶワインレッドの影。 もう一機は黒白のツートンカラーの機影だ。 「もしかして、あれは……!」 あの日、あの時。神社の境内。 落ち着いた装いに隠された、殺気と悪意! 「モンゴル地区丸々落とした甲斐があったものだな!ヒヅルううゥゥ!!」 「違いない、エムル……!!」 騎士然としたシルエット。 二刀流に、両腕のシールド。 シールド内部はそれぞれ、右手はライフル、左手はマシンガンと一体になっている。 背部と腰に大型のバーニア。 「ロクにFSも扱えないくせに……」 メドラードは、ビームパルスマシンガンの連射でアマテラスを追う。 「危ない、牽制するわ!」 マドゥ=クシャがビームをメドラードに速射する。 シールドで軽くいなしつつ、エムルが吠える。 「猫風情が!貴様に用はない。メアリー!」 「排除開始…」 メアリーの乗るイゾルディアがフライトユニットで、低空からフィリスに詰め寄る。 マドゥ=クシャの航行能力は、飛行より滑空が正しい。 背部の飛行ユニットで短時間飛行を繰り返しているに過ぎない。  フライトユニットで上空を取られるとフィリスが不利だ。 ヒヅルは飛行高度を落とし、地上に近いところでフィリスと連携できる体制を整える。 が、アマテラスは急に機体に真横から衝撃を受けた。 「!!!どこからの攻撃だ!?損傷は!?」 モニターは右足部裂傷を映し出していた。 だが、どこから攻撃を加えられたのかが分からない。 エムルはまだ遠く……ということはもう片方の黒白のか! 「来るわ!左よ!」 フィリスはその攻撃を、既に見切っていた。 イゾルディアがアマテラスの下方で、諸刃の剣を中距離から振るう姿が見えた。すると…… 「あ、あれは普通の剣じゃあないッ!!」 イゾルディアの剣がみるみる伸びているではないか。 節々に分割された刀身の内部にワイヤーを仕込まれ、鞭のようにしなる。 「き、軌道が読みにくいッ!」 大きく回避を行い、かろうじて二撃目は当たらずに済んだ。 だが、イゾルディアはその間に素早くマドゥ=クシャに近づく。 「こっちは任せて!そちらはあの二刀流を!」 「あぁ!」 メドラードとアマテラスの距離が詰まる。 すれ違いざまにビームカービンとシールドライフルを撃ち合う! が、互いに当たることはなく、幾度も繰り返す。 「ヒヅルッ!貴様を倒せば俺は……俺はお父様に!!」 「何故君は僕とアマテラスに執着するんだ!」 「うるさい!!特別な機体、特別なシステムッ! FSもロクに扱えないお前が、認められているんだよ!周りにィィ!!」  ムカつく。トントン拍子に特別なモノと地位を与えられて! 俺は!どれだけ人を殺しても、どれだけ戦果を上げても、父上に褒められることすらないのに!  「貴様を倒せば、俺は……俺はァァ!!」 激しいビームパルスマシンガンとシールドライフルを、アマテラスに豪雨のように浴びせる。 襲い来る暴風雨を、ヒヅルは紙一重で避ける。 「どうしても僕を殺る気なのか……エムル!!!!」 他方、はるか地上ではイゾルディアの蛇腹剣を、フィリスがクナイで捌きつつ量産機群を着々落としていた。 「敵兵は……排除」 「どうやらそう易々とは帰してくれないみたいね」 地を跳ね回る猫と、可憐に飛び回る姫の一進一退が始まった。
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