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リビングには在宅ワークの父と、専業主婦の母もいる。
二人と対面で話すのは久しぶりだ。
「ミクならば、必ず選ばれると思っていたよ。成績優秀で性格もまあまあ。
外見だって、ママに似て美人さんだからな」
手放しで喜んでいる父は、親馬鹿だ。
母によく似て卵顔、瞼は奥二重、そして少しだけ鱈子唇なのだ。
身長5フィート1インチ、体重は百ポンド。つまり小柄。
「行き先は、もう決めたの」
母は早速タブレットやコンセント、変圧器を、本来準備すべきミクの代わりに、ボストンバッグに詰めている。
「決めているよ、2023年の日本へ行く。
場所は、えっとここが首都だから」
眼前に地図画像を映し出すと、父の実家付近を指さした。
「その頃ならパパ、丁度今のミクと同い年くらいでな。って、え?
パパに会いたいのか、若かりし日の男前なパパに!」
父は大袈裟に喜ぶが、違うよ、と速攻で全否定するミク。
近現代へ旅行する際の、注意事項が書かれた文書に目を通している。
「パパもいるけど、山下くんもいるわね。
是非一度、会っておいてほしかったのよ。若き日の山下くん」
優しく微笑む母からは、口癖のよう何度も聞いている。
「そうだな。今のミクに足りないものも、山ちゃんなら全て持っている。
この時代では失われてしまったものも、あの時代にはまだ沢山あるからな。
幕末やルネサンスやフランス革命やらっていう過去も、歴史の動いた瞬間を肌で感じられる点では魅力的だ。
が、今のミクにはそれよりも。
自分が存在している実感や、どのようにこれから生きていくのか。
なんてことを、より現実的に考えてほしい。
ミクに限らず、この時代特有の問題かな。
何にせよ、俺と山ちゃんのいるあの時代が最良だろう」
父は腕組みをし、長々と語った。
時間旅行に応募した時から、実はミクは、行きたい時代も場所も決めていた。
そこから志望動機を考え、応募資料を作成したのだ。
山下さんとは両親の、結婚するきっかけになった人だ。
今は父の都合で米国にいるため、何をされているのか知らないが。
よく気が回り優しく、いるだけで周囲を明るくする人だったらしい。
両親の会話の中に今も頻繁に登場するので、お会いしたことはなかったが、想像だけはしていて。
是非ともお会いしてみたかったのだ、当時の山下さんに。
それができるのが時間旅行、夢があるでしょう。
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