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クロサアリシミ。好蟻性昆虫だ。普段ならばアリの巣をものすごい速さで移動しているはずだが、殺虫剤で弱ったのだろう。掘れば掘るほど弱ったシミが出土する。少し面白くなってきた頃、面白くない事態が起こった。土に差し込んだバチヅルが釣りのように引き上げたのはアリに少し似た姿の生き物だった。実際はわからないが、目が合った、ような気がした。噴霧器のレバーを押すのと同時に右腕を噛まれた。右手から滑り落ちたノズルを左手で捕まえて右腕に吹き掛けた。目に染みる。鼻がツンとする。何度か咳き込んでから落ちたバチヅルを掴んで平たい方で削ぎ落とすように虫を引き離した。皮膚も少し捲れた。
腹を上に向けて地面に転がるのはハネカクシだ。こいつも好蟻性昆虫。バチヅルで頭と胸と腹を切り離した。右腕が刺すように痛い。というか実際に刺されたのだが。刺されたと言うよりも噛まれたか。全部持っていかれなかっただけマシだったのかもしれない。駄目押しでもう一度巣の中に殺虫剤を噴霧してから産業振興課に連絡を取った。仕上げの処理は自衛隊か業者か。やってくれる業者あるかな。
あまり気は進まないが会社にも連絡をしておこう。特殊業務部を呼び出したら案の定嶺岸が応答した。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないけど大丈夫」
「どっちですか」
「スロットル捻る方負傷したから迎えに来て欲しい」
「わかりました。すぐ行きます」
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