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1話:高崎真理
澪は二十五歳。統合失調の診断を受けていた。退院後は一人暮らしで、日がな鼓膜を震えさせてくる電磁波被害に苦しんでいた。
しかし診断を受けた以上、電磁波の相談は人に出来なくなった。全て“幻聴”で片付けられるからである。バカにされて傷つくのは彼女一人だった。
電磁波被害は夜が派手だった。澪は連日就寝直後に攻撃を受け、ベッドから跳ね起きて、被害対策のために、家の中を駆けずり回った。
“友の会”監視団は二十人体制で北川澪を攻撃していた。既に統合失調工作は完了済。夜になると数十種に及ぶ盗撮盗聴映像を忙しく切り替え、ターゲットを睨み続ける。
メンバーの一人が団長に報告。
「ターゲットがヘルメット被りました」
「バカだな、ヘルメットで電磁波防御なんか出来ないのに」
監視団は、団長の指示ですぐ攻撃しようとしたが、彼らの後ろに立っていた紅一点、真理はそれを止めた。メンバーに説明する。
「一度“ヘルメットで防御出来るんじゃないか”と希望を持たせるのが効果的なの」
電磁波という音の一種である振動を発しているのは会の武器、弱スタンガン。真理は、それががまるで盲目の蛇のように部屋中を這いずり回ってターゲットを探っているかのような演出をしろと指示した。
説明も追加した。攻撃予告が長ければ長いほど、ターゲットの恐怖は倍増する。もったいつけたあげくにターゲットの鼓膜を震えさせ、脳髄を攻撃すれば、ターゲットは絶望してより早く死にたくなる。
これを聞いた団長は目を輝かせた。
「なるほど! さすが二十八歳のコーデリア賞学者、高崎真理先生。世紀の天才です」
季節は冬。彼女は暖房が少し暑くて白衣を脱いだ。空席の背もたれに掛ける。白衣の理由は生きたマウスを扱うことがあるからだ。
彼女は監視団の中の青年に近づいて話しかけた。
「何かスポーツ、やってる?」
「どうしてわかるんですか」
彼は面食らっていた。目を丸くして可愛い顔してる。
「私も若い頃かじっていたから、わかるんだ」
真理は美しい青年を引っ掛けるのが好きだった。
あさっての方向から団員の声が上がった。
「先生、やりました。ターゲット過呼吸になってます」
「もっとじわじわいじめ抜いて」
真理は適当な指示を出しておいた。
後に真理が聞いた話だと、澪は被害告発のために、ブログを書いているらしい。ちゃんちゃらおかしかった。
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