神子

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神子

王城から撤収するように、俺たちは大神殿に送り届けられた。エリスさまは続いて駆け付けた王妃さまと共に王城での後片付けに向かった。 王妃さまからは今度はセウと3人で顔を見せに来て欲しいと言葉をかけてもらえて、その時は私もとエリスさまが微笑んでいた。 マルコもその後治療を受けさせてもらえたようで安心した。キリクは、頬の殴られた痕は暫くとっておく……と、言っていた。 一方で大神殿組は、帰還したら帰還したらで神官長や神官たち、神殿騎士たちに盛大に迎えられてしまった。 「あの、保育施設の方は……」 「みんな無事ですよ。スタッフも……それから子どもたちも。暫くは恐がってしまいますけど……それでも、その心の傷を癒すのも、神官としての務めです」 神官長さまの言葉に、周りの神官たちも頷く。 「さぁ、ツキさまたちは、早く治療を」 「……はい」 ヒナタも俺も、疲弊し過ぎていた。それでも俺の身体をセウが支えてくれるのはとても嬉しくて、力強くて、安心できる。 ルアも俺の安心した表情を見てホッとしたのか、ヒナタの手を握りながらしっかりとした足取りを歩んでいる。 「でも、大切な伴侶なのですから、ちゃんと紹介しなさい、セウ」 神官長さまの言葉は……一体……。 「……別に」 セウは相変わらずの口数の少なさだ。 「あの……神官長さまとセウは……?」 「セウったら……言ってなかったんですね。やはりと言うか、らしいと言うか」 神官長さまがセウを見て苦笑する。 「私は……セウの母親です」 『……えっ!?』 そしてその言葉に驚いたのは俺だけじゃなかった。 「こ、子持ち……でも未婚だよな!?神官長さま!」 ヒナタったらそんなガッツいて……どうしたんだ……? 「えぇと……夫は戦死してますので……今は未婚ですよ」 そうだ……セウのお父さんが亡くなっているのなら、その母親の神官長さまだって……。 「その……ごめん」 ヒナタが急にトーンダウンする。 「いえ……もうずいぶんと昔のことですし。戦ばかりでろくに帰って来ないひとでしたから。あのひとは一歩間違えれば王位争いの火種になるかも知れない立場でしたから……仕方がなかったんでしょうが……。今はずいぶんと平和になりました。だから……セウ、あなたは……」 「……分かってる」 セウは少し寂しそうな表情を浮かべ、俺を抱き寄せる腕に力が入る。 「大丈夫だよ。セウ」 「……ツキ?」 「俺、セウの奧さんにしてもらえて……とっても幸せだから」 「……」 セウは小さく頷いた。 ※※※ 大神殿のふかふかなベッドの上でひとねむりすれば、そっと瞼を開ける。ベッドの傍らには、セウの姿がある。 そしてその膝の上には。 「まま!」 俺が目を覚ましたことに、嬉しそうに手を伸ばしてくれる。 ルアの手を握れば、きゃっきゃと微笑んでくれる。そしてそんなルアの頭を優しく撫でてくれるのは、セウ。いつの間にか、2人も仲良くなってる……?俺としては嬉しいものである。 そして和んでいれば、廊下からパタパタと駆けてくる足音が響いてきて、医務室の扉がバッと開かれる。ヒナタ……!若いからだろうか……すっかり元気になっているようだ。 「おい!ツキさんの旦那……セウさんだったな!」 え……セウに、用……? セウはあまり興味なさそうだったが、俺がヒナタを見ていることにようやっと視線を移す。 さらにその場に、神官長さままで来た……? 「ちょっと、ヒナタ!いけません!」 いけませんって……何がだ……? 「セウさん!神官長を、俺の嫁にくれ!」 「ちょ……っ、何を言ってるんですか……っ!」 ほんと……何言ってるんだろ……。 よくよく話を聞けばだ。 「だから……俺は神官長が好きだ!いや……デニズが好きだ!」 神官長さまの名前を呼び捨てで!?攻めたな、ヒナタ!? 「な……何を、そんな。私はおじさんなんですよ」 「年齢なんて関係ねぇよ!俺は……俺が、デニズのことが好きなんだ!」 ヒナタくん……神官長さまが好きだったの……? 「息子のことがあるってんなら、今ここでセウさんの気持ちを聞かせてくれ!」 それでセウの元に来たの……? 「俺は……」 「セウ……?」 神官長さまも息を呑む。 「あんたの好きにすればいい」 「……っ」 神官長さまがその答えにぐっと何かを呑み込む。 「あの戦バカに苦労したんだろ。あんただって……幸せになるべきだ」 「……幸せじゃなかってわけじゃありません。少なくとも……あのひととの息子は、残りましたから。そして……ちゃんと育て上げることもできましたから」 神官長さまがセウからふいと視線を反らす。 しかし再びセウをその瞳に捉える。 「だからツキさまを……ちゃんと幸せにしなさい」 「当然だ」 即答するところはなんだか嬉しい……かも? 「あんたも……」 そして続いた言葉に、神官長さまは顔を赤くした。そんな神官長さまを見て、ヒナタはニカッと笑むと、どうしてかヒナタの身体が輝いた……? 「あの……もしかして……」 「神子の、力ですか……?」 神官長さまが驚いて目を見開く。 「……っぽい?」 思わぬところで、神子の才が開花したのであった。 ※※※ ウェントゥス王国には2人の神子がいる。 ひとりの神子は産休に入り、暫くはひとりの若き神子が神子の務めをひとりでこなした。 そして、その一年後。もうひとりの神子は次男を出産し、4人家族で仲良く暮らしているという。 神子の力はもっぱら最愛の夫のために使われるが、時にもうひとりの神子を支え導くためならばと彼の夫が特別に認めたことは余談である。 【完】
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