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 車内は陽気な錦木のおかげで退屈することもなく、無事目黒に向け走っている。 「記憶は曖昧なんですが、確か三人で出前取りました」  雪羽から抜け落ちている記憶を、断片的にだが思い出す錦木。 「どうして家に帰ろうと思わなかったのかしら。  私たちへ連絡するのは妨害電波で無理だとしても、脱出という言葉が抜け落ちていたの」  運転しながら阿弥は、バックミラー越しに雪羽と錦木と交互に見やる。 「全てどうでもよくなるくらい、幸せな気持ちだったように思います」」  錦木の回想に、確かに、と雪羽も頷く。 「満たされていたというか、感謝の気持ちでいっぱいでした」  自分が今どこにいるとか時間とか、そんなの全てどうでもいいほど安心しきっていた。  効果が切れれば拷問椅子に戻されるというのにだ。 「後で念のため薬物検査しておくけど、大丈夫よ。  貴方たちは被害者なんだから、堂々としていないさい」 「六花さんからのメッセージは、解読できたのですか」  雑音と砂嵐の後で起こった六花の沈黙と口パク。 「兄にお願いしたの」南無二郎は協力者で住職だ。  檀家には聴力に障害を持つ者もいて、その人に動画を見せたところ読み取ってくれたらしい。 「ギフトの皆が生きやすい世の中になりますようにって」  声に出さなかったのはきっと、ギフトが機密事項と知ってのことだ。  ちゃんと阿弥の立場を考えた上で、真っ直ぐ見据えてくれていた。 「悪用されたのですね、気持ちを」  許しがたいことだ。  六花は純粋に華宮を好きになり、親友である阿弥を大切に思った。  そこに風花が考えたような競争心もIQ差別もなくて、ただ周囲が勝手に勘違いし面白がった。  六花は気づいていなかったのだろう、妹の研究も応援していた。 「大城と貝沢も帰国する」  呟く結城に、驚いた阿弥が待ったをかけた。 「嘘でしょう、私まだ明洞コスメ頼んでいないわ。  雪羽ちゃんだってハニーマスタードとか海苔とかコチュジャンとか、頼みたいもの色々あるでしょう。  ちょっと結城くん、電話して」  急に騒がしくなった車内で、賑やかだな、と錦木は微笑む。 「どうして私には食べ物ばかり、まさか食いしん坊のイメージが」  確かに化粧品(コスメ)や雑貨よりも、食品ばかり普段は買っている。  だが折角の土産なのだから、普段縁遠い品を貰いたいようにも思う。  全国民ギフト化計画という夢のような構想は夢幻に幕を下ろした。  例えギフトがあっても・なくても、残念ながら格差はなくならないというのが現実だ。
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