喪女の夢のような契約婚。

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『五十嵐室長はテクニシャン』は、とある小説投稿サイトで連載中の人気作品だ。毎週、月水金の午前六時に更新される。  言わずもがな、主人公は五十嵐室長。イケメンエリートな上に隠れ御曹司というよくあるヒーローではあるが、『~にもかかわらず、EDでDT?!』というサブタイトルがついていて、かなり残念なイケメンなのだ。  その五十嵐室長をこよなく愛する女性がいる。その名も浅香凡子(なみこ)。彼女は小説の登場人物ではなく、『五十嵐室長はテクニシャン』の熱心な読者の一人だ。平凡な子になるように『凡子』と名付けられたこの女性は、月並みとは言いがたいほどの喪女に成長した。彼氏なし歴二十四年(=年齢)の筋金入りの喪女である。  凡子は、更新のある朝、最新話を最高のコンディションで読むためにいつもより早い四時に目覚める。まずは身を清め、その後で、熱いコーヒーと朝食を摂る。何も口にしないと集中力が低下するが、摂りすぎもよくない。消化器に脳への血流を奪われないよう、いつもより軽くする。 「全身全霊をかけて、最新話を拝読するのがわたしの使命」と信じている凡子は、更新の十分前にはスマートフォンを手に、期待に胸を膨らませながら待つ。これでも、待機時間は随分短縮された。当初は一時間ほど画面を見つめて待っていたのだ。
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