椎名くんは震えない

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 そして五分後。 「いやー寒い寒い」  椎名くんが持って来たのは温かそうなココアだった。 「おい。灯油は」 「あ! いっけね、忘れてた!」  何しに行ったんだお前。 「一階に降りたらちょうど母ちゃんたちがお茶飲んでてさ。これ藤川さんに持って行きなって呼び止められて」 「嬉しいけど、灯油は」 「これ飲んだあとだな」  仕方なく、二人で震えながらココアを飲む。チョコレートの甘さが口の中に広がり、熱が喉の奥を通ってトロッと胃の中に落ちていく。 「やっぱり寒い日にはココアだな」 「うん。でもできればあったかい部屋で飲みたい」 「まだそんなこと言うか。この部屋がどんなに暖かいか、廊下に出てみれば分かるぞ」 「そう言って私を廊下に出したら灯油もってこいって言うんでしょ」 「藤川〜。お前はいつからそんなに可愛くない女になったんだよ」  椎名くんは悲しそうな顔をする。 「もういい。お前がそんなこと言うんなら、俺はこのままここで凍死する」 「ちょっと、椎名くん! 変な意地張らないで灯油持ってこいや」 「お前、さっきから灯油灯油って。俺と灯油、どっちが大事なんだよ!」  いや、今は灯油でしょ。悪いけど。
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