第一章(藤堂朔視点)

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第一章(藤堂朔視点)

今日で11月も終わりか。 なんてぼんやり思いながら、人気のない路地裏の道を歩き、帰路に付いていた。 「初めまして、藤堂朔(トウドウサク)くん。私、杉原衣(スギハラコロモ)と言います。四葉女学園の3年です」 そう、前に立つ眼鏡の女性に声を掛けられる。 藍色のリボンに、白を基調した清潔感ある制服を身に着けている。 あぁ今日は本当に付いてない日だ。 「四葉女のお嬢様が俺に何かご用でしょうか?」 「単刀直入に申します。私、貴方が好きです、お付き合いして頂けませんか?」 愛想ある笑顔で、要件だけを述べる彼女。 よくもまぁ、余り知りもしない俺なんかに告白なんて出来るものだ。 「悪いけど、俺はアンタを知らないし、付き合う理由なんてないんで」 強弱の乏しい口調で淡々と言ってやる。 今の俺に、誰かを気遣う余裕なんてない。 「私、諦め悪い方なんです、写真部が売っていた貴方の写真を見た瞬間、一目惚れで。今日はただ先制布告にきただけですので、またチャレンジしに来ますね」 彼女はそう言い残し、軽い足取りで路地裏を抜けて行った。 何度来られようと、俺の答えは変わらない。 ああいう人の気も知らずに迫る強引な相手はほっとくに限る。 ***** もう肩を落とすしかない。 俺、GPSでも付けられてるんじゃないだろうか。 高校からの帰宅途中、今日で4日連続だ。 いい加減にして欲しい。 「藤堂君、何処かでお茶しませんか?私、美味しいチーズケーキの店知ってるので、一緒に如何です?」 「断る。もう良い加減に他当たってくれよ、迷惑なんだけど」 「私の事をよく知れば、藤堂君も私を好きになる筈です。だからまず、私と親交を深めましょ」 「どっから来るんだその自信は。とにかくお茶はしないし、暗くなる前にお前も気を付けて帰れ」 「藤堂くん、好きですよ」 「はいはい」 「人がせっかく真面目に告白してるのに、適当過ぎます」 「そんな俺に幻滅して諦めて下さい、杉原先輩」 因みに俺は、四葉女学園の徒歩圏内にある共学校、双葉高校2年。彼女より一つ下だ。 四葉女学園は、雑誌に掲載される程、この地域では知らない者は居ない、選ばれたお金持ちの娘さん達が通うお嬢様校だ。 うちの写真部と四葉女の写真部は蜜月な関係らしく、お互いの写真を取引しているなんて噂があったが、それは真実だったらしい。 俺に害がないのならどうでも良かったが、彼女に目を付けられる原因となった写真部には今、怒りしか湧いてこない。 杉原さんも悪い人ではないと思う。 一生懸命に想いを伝えようとする反面、深追いは絶対にしてこない。人との距離の図り方が絶妙に上手いのだ。 それに、常に背筋の伸びた佇まいで、笑顔にも品があり愛らしさがある。そんな笑顔で「好き」と言われれば悪い気はしないは確かで。 でも、俺には忘れる事なんて出来ない相手がいる。 「俺には好き子がいる、とても大事な女の子だ。だから、杉原さんの気持ちに応える事は出来ない、ごめん」 4日目だ、流石にきちんと印籠を渡さなければと思った。 杉原さんの時間を俺に使うなんて勿体無い。 彼女なら、俺よりも条件の良い相手がすぐに見つかる筈だ。 「知ってます、写真部から裏情報で教えて貰ってましたから。でもまだ、諦められそうにないんです藤堂君の事、もう少しだけ片思いさせて下さいね。藤堂くんが、好きなお相手と付き合う事になったその時は、潔く諦めようと思います」 言うだけ言うと、今日も笑顔と俺を残し、足早に去って行ってしまった。 勝手な事を言ってくれる。 俺の片思いは、けして成就する事はない。 .
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