24-16

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24-16

 午前9時半。  開明高校に到着した。約束どおりの時間だ。手前でタクシーを降りて、懐かしい景色を楽しみながら学校へ向かった。黒崎の送迎が始まるまでは、この道を歩いて通った。3年生になり、黒崎と出会い、正門の近くで車から降りていた。もうすぐでその場所が見えてくるはずだ。 「懐かしいねえ」 「ああ……」  すると、礼拝堂の鐘が見えてきた。午前中は一般開放されているから、寄って行こうと話した。さらに何度も通った正門が見えてきた。そばには車寄せスペースがある。ここに黒崎の車が停まっていることが日常だった。不思議な感覚になった。3年後、こうして訪ねて来るとは想像していなかった。   「田中先生がねー。待ち焦がれているぞって……」 「有難いことだ。荷物が重くないか?持ってやるぞ」 「これぐらいは持つよ。黒崎2号を持ってるけど……」  正門の前に立ち、校舎へと向かった。静まりかえっている。ドキドキしている。校庭や木々からの匂いが懐かしい。目指す場所には職員室があり、上階には3年生の教室がある。すると、上の方から歓声が聞こえた。  ワーーーーーー!  夢でも見ているのだろうか?コンサート会場ではないのに。教室の窓から大勢の生徒が手を振り、名前を呼んでくれていた。 「ナツキさーーん!こんにちはーー!」 「待ってましたーー!」 「先生を呼んで来い!」  3年前に卒業したから、今ここには知っている生徒いない。それなのに向こうは知っている。会ったことも話したこともない自分に、笑顔を向けてくれた。愛情を受け取った。黒崎から頭をクシャっと撫でられた。来てよかったなと言いながら。  この学校に入り、自分の家以外の居場所を見つけた。捻くれた言い分を否定せずに受け入れてくれる学校だ。入った時には驚く。同じ経験をした上級生が、新入生の面倒を見る。そして、お互いに癒されて、前へ進む。 「ナツキさーーーん!」  すると、他の階からも歓声があがった。幼い顔立ちの生徒だ。入学して3カ月の1年生たちだ。まだ学校に慣れてきたばかりで、自分の殻を破れていない頃だ。なのに、笑顔になっている。 「あんなに笑えるんだね……」 「お前もそうだ。今はもっと笑っている」 「あ……」  さらに一斉に歓声が大きくなった。正面玄関から、田中先生が出てきたからだ。当時よりも清潔感があると思ったのは失礼だろうか?世話を焼いてくれる人が居るからだ。しかし、笑顔はそのままだ。最初に何を話そうか決めていたのに、自然と大声が出た。 「先生!ただいまーー!」 「おかえり!」  黒崎から軽く背中を押された。抱きついてこいと。お許しが出たことだし、思う存分、先生に抱きついた。すると、勢いがつきすぎてバランスを崩し、2人で地面に転がった。そういう俺達は、生徒からの笑い声に包まれてしまった。
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