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「その紙、どうすんだ」
「え、なに」
私は無条件に流れてくる涙を、制服の袖で拭った。
「その紙、読んだんだよな」
「読んだよ、うん」
賢治郎は、どこか恭しく、右手のひらを差し出した。
「その紙……俺に返すのか。それとも、俺に、くれるのか?」
「……え? いや、だから――」
一緒じゃん。そう言いかけたけど、飲み込んだ。
分かったから。一緒じゃないって。
『すきだ』を返すか、それとも『すきだ』をあげるのか。これは同じ行動にして、全く異なる結果を意味するものだった。
当然私だって、賢治郎が好きだ。
だから気持ちを返すのではなく、私からもあげたい。
ちょっとラッキーでもある。直接「私も好き」と言わずとも、私の気持ちを伝えられるのだ。素直ではない私にとって、願ってもないシチュエーションと言える。
でも……なんかちょっとずるいよね……。
私は紙くずだったものを開いて、まるで卒業証書授与のように両手の指先で掴みながら差し出した。
「これ……私からも、あげるよ」
「!!! マジ? 俺にこれ、くれるんだな!?」
私はコクリと頷いた。そして大きく息を吸い込んだ。
やっぱりちょっと、ずるいから。
「……わ、私も! 賢治郎のこと好きで好きでしょうがないから、この紙、あげる!」
言えた……!
なんだよ、言えるじゃん私。やれば出来るものだね。なんだかとてもすっきりした。こんなことなら、もっと早くするべきだった。
私が自分に驚いていると、それ以上に驚いている男が目の前にいた。
賢治郎は、感に堪えないといった様子で、差し出した私の手を掴むと、自分の方へと手繰り寄せた。
驚いて声も出なかった。
そして続け様に襲ってきた突然の感触に力が抜け、紙くずだったものから手を離してしまった。
……この時、私がなにをされていたかって?
『すき』と書かれた紙が逆さになってチューを舞った。
ただ、それだけだよ。
■おわり■
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