<上>思わせぶりなことするな!

1/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

<上>思わせぶりなことするな!

 青天の霹靂――ではない。  突然出会ったわけでもなければ、運命の再会なんかでもない。  何なら園児の頃から知っている。小学生時代も知っている。十六歳の現在に至るまで、全部知っている。  それでも、衝撃と言えるくらいには驚いた。  なにせ、いつもふざけていて、目を糸みたいにして笑っていて、軽口ばっかり叩いている賢治郎(けんじろう)が、神妙な面持ちで駆け寄ってきたのだから。 「……紗綾(さあや)、手ぇ出して」 「え!? ちょ、なんで!?」  ――帰り道だった。  定期試験まで一週間を切ったことで、部活動や生徒会活動が原則休みとなった今日。高校から駅までの道中は平時より賑やかだった。  いつもなら部活に勤しんでいる友人達との下校は何だか新鮮で、勉強しなくてはならない時分なのに、寄り道をしたい欲が高まる。  私と賢治郎を含め、八人の連れ合いでファーストフード店に立ち寄った。  いつもとは違った下校風景ではあったけれど、賢治郎はいつもと変わりなかった。ハンバーガーを食べる前だっていうのにガムを噛み始めちゃったりして、いつも通りの馬鹿な幼馴染でしかなかった。  お腹も寄り道欲も満たされた私達は、駅で別れてそれぞれの帰路につく。  私と賢治郎にとっては、高校の最寄り駅、即ち自宅の最寄り駅なので、ここからは徒歩での帰宅となる。    私はここで思案する。  一緒に、二人で帰るのかな、どうするのかな……。  そんな淡い期待感と正体不明の気まずさを醸し出す私のもとへ、改札まで友達を見送りに行っていた賢治郎が、いつになく真面目な顔で戻ってきた。  ――そして、「紗綾、手ぇ出して」に話はつながるのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!