4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
あれは、死に瀕していたために見た夢だったのだろうか。
穂高は、梅田と旅の支度をした出来事を思い返す。
まるで思い出のひとつのように鮮明に思い出すことができた。
だが、あまりにも現実的ではない。むしろ、夢だからこそ鮮明に思い出せるのではないかと穂高は思い直す。
しかし、脱衣所から逃げ出す寸前、無数の手に掴まれた手足には、今でも強く掴まれた感触が残っている。
――そっちに行ってはいけないよ。
あの時、逃げ出せていなければ、今頃この世にいなかったのだろうか。
穂高はそう考えて身震いした。
ふと、風にのってどこからか線香の匂いが香って来た。
病院内で線香の匂いがするわけないのにと穂高が思った瞬間、線香の匂いに交じって一瞬、梅の香りが鼻をくすぐるのだった。
END
最初のコメントを投稿しよう!