雪鬼

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 それ以降、両親の仲は急速に悪化した。いつも喧嘩ばかり、父の帰宅時間はどんどん遅くなっていき、そのうち帰って来なくなった。父がいなくなったことで母のわたしへの暴力は次第にエスカレートしていった。こんな風になるとわかっていたら、わたしも雪鬼に連れて行ってもらえば良かったと何度思ったことだろう。実際、あれから何度も訪れた大雪の冬のさなかに、雪鬼に会いたいと思いつめ、その度に凍てつくような吹雪の中を彷徨ったりしたけれど、わたしの願いは叶わなかった。多分、わたしは死んでしまいたかったのだと、大人になった今になって思い至った。  雪鬼にはとうとう会えなかったが、今でも雪が降ると、舞い落ちる雪の彼方から、時々、助けを呼ぶ妹の声がかすかに聞こえることがある。  本格的な冬の来訪とともに、今年もおぞましい雪が降る。  はらり。はらり。  はらはら。はらはら。  儚げな花びらのように、散りゆく桜の断末魔のように。    雪片が舞い乱れるさなかで子どもたちが鬼ごっこをしていたら、ひとりふたりと人数を数えてみたらいい。もしも一人多かったら、それは…。 𝑭𝒊𝒏
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