<10・消失。>

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「あるいは、わたし達の方が学校そっくりの異空間に閉じ込められてるのかもね。他の生徒を全部神隠しするより、そちらの方が簡単かもしれないわ。どっちみち、わたし達の方をこの学校に閉じ込めておかないとゲームが成立しないでしょうし」 「!」  その言葉を聴いて、慌てたように京が廊下の窓にとびついた。末弟の行動を見て、英と貞もそれに従う。 「あ、開かない!」  こんこんと雪が降る外。冷え切った窓枠をぐいぐいと引っ張る京。ゆいなは気づいた。彼等が引っ張る窓の鍵が開いていることに。  そう。  鍵がかかっていないのに、窓が開かないのだ。 「嘘……!」  慌ててゆいなも駆け寄った。別の個所の窓を、鍵を開けた上で引っ張る。右、左、一応上や下にも引いてみた。ついでに、窓ガラスに拳も叩きつけてみる。しかし。  びくともしない。  自慢じゃないが、自分は怪力だ。他のちょっとした硝子なら素手で叩き割れる自信がある。そもそもそれ以前に、普通の窓なら多少鍵がかかっていても強引にこじ開けることができただろう。――それがまったく、ぴくりとも動かないのだ。  鍵がしまっている、というかんじではない。  接着剤で窓がくっついているというのでもない。  そうまるで、この空間にぴったりと窓を貼り付けてあるような。向こうに見える雪景色も何もかもが張りぼてで、この向こうにはただ虚無が広がっているようにと思わせるような、違和感。 「くそっ……!」 「あ、ちょい待って、亞音!」  亞音が廊下を走っていく。靴箱に向かっているのだと気づいて、慌てて沙穂が声をかけた。彼女とともに、ゆいなも亞音の傍へ走る。この状況、一人になるのは危険だと判断したためだ。  亞音は靴をさっさと履き替えると、玄関の扉に飛びついた。こんこんと降る雪が、扉のすぐ傍まで積もっている。硝子は冷え切っていた。生徒の登校時間、玄関がしまっているはずがない。  それでもやっぱり、亞音は扉を開けられないようだった。手の先が真っ白になるほど力をこめているのにだ。 「ほ、本当に閉じ込められてるの!?うそでしょ……!?」 「こなくそっ!!」  ゆいなと沙穂も同じく引っ張ったり押したりを繰り返すが、やっぱり無駄だった。冗談きつい、と言わざるをえない。  自分達は、この学校に閉じ込められている。  先生一人と、生徒十一人。このメンバーだけで。 「どうしよう……」  靴箱に走ってきた少年少女達の中で、やはり湯子が一番限界が近いようだった。再び嗚咽を漏らし始める彼女の背を、エリカが支える。 「どうしよう……どうしよう、どうしよう、どうしよう!私死にたくない、死にたくないよう……!なんで、なんで?ニコさんなんか知らない、知らないのに!」 「お、落ち着けって、湯子。な?」  呼びかけるエリカの顔も青い。 「せ、先生……」  助けを求めるように、ゆいなはこの場にいる唯一の大人へ声をかけた。山吹先生は、それでも自分がしゃんとしなければと思っているらしく、顔色が悪いながらも皆に指示を出したのだった。 「……とりあえず、教室に戻りましょう。此処は寒いですから」
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