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「それで何の用だ」
「いや、竜がドルチェが困ってそうだから行ってみたらっていうから」
……ここの竜はエスパーか。
「困ってるといえば困ってるよ」
今もスライムはぷるぷると容器からはみ出そうとして、はみ出した隙間から水に戻っている。蓋をすれば生存はするのだが、この蠕動自体はスライムの本能だから如何ともし難い。
「スライムが動かないようになればいいんだが、殺せばまた水に戻るんだよな」
スライムはその核で動いているわけで、核を破壊すれば死んで水に戻る。
「動かないようにすればいいんじゃない?」
「それが出来たら苦労しねえ」
タリアテッレは突然スライムに手を突っ込もうとしたものだから、スパンと頭をはたいた。
「考えなしに触るなっていつも言ってるだろ」
普通の水で作っているから問題ないものの、昨日までのような酸性の強い液体でつくれば手が溶けるところだ。
「だって仲良くなれそうだと思ったから」
スライムと、仲良く……? 目の前のスライムはもぞもぞと揺れているが、知能があるようにも思えない。けれども俺は竜と仲良くなれるとは思っていなかった。タリアテッレならスライムと仲良くなれるものなのか? 頭の程度が似たようなものだろうか。
「ちょっとだけだぞ」
「ドルチェさん、危険ではありませんか」
「これは水で作っているので、水が物を溶かすスピードが少し早くなる程度です」
「え、それってヤバいんじゃ」
「だからなんでも触るなって言ってるだろ」
タリアテッレはそれでもゆっくりと手を伸ばし、眠い眠いと呟きながらスライムに触れれば恐るべきことにスライムが静かになった。
「タリアテッレ、お前何やった」
「スライムを寝かせた」
スライムって寝るのか……? 今のうちと思ってスライムの端っこを切り取ると同時に固化の呪文をかければ、動かない状態がキープされた。3分程だけ。
「固化、通りましたね……」
「これを加工できるのだろうか」
薄く引き伸ばして被膜のように使うらしいが、流石にそこまでいくと専門的すぎるだろう。ともあれ製品化の可能性ぐらいは示せた。俺の役目はここまでだ。
軍部からたっぷりと成功報酬を頂き、タリアテッレが報酬として一番仲が良かった騎竜を貰った。竜車に乗る運賃は一人分減ったが、来たときとは別の国境の街キーレフについたとき一悶着があった。竜が国境を超えるのを拒否したのだ。どうも魔素が薄いところで暮らしていたせいか、魔素の濃い隣の領域に行くのを随分嫌がった。結局軍部への返却を依頼しタリアテッレは泣く泣く見送った。
「せっかく仲良くなったのに」
「生態系が違うから仕方がないさ。お前も空気の薄いとこに引っ越すと困るだろ」
「……まあね。でもせっかく貰ったのになぁ」
タリアテッレは酷く残念そうに肩を落とした。それほど、というか御者がドンびく程度には仲良くなっていた。けれども俺には魔法の言葉がある。
「次に向かうエスターライヒには魔王がいたらしいぞ」
案の定、タリアテッレの表情は明るくなった。
「今もいるのかな」
「それはわからんが、平和的な魔王だったらしいから喧嘩はするなよ」
「平和な魔王? それは魔王なの?」
「知らん。世の中にはいろんなのがいるからな」
Fin
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