若奥様のおしゃれ

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若奥様のおしゃれ

 昨日まで降っていた雨は、夜半過ぎに止んで、今日は朝から爽やかに晴れている。  寝巻から着物に着替えるときに、肌着一枚になると、うすら寒かった。  少しずつ冬の気配が訪れている。 「櫻子さん、お使いに行ってくださる?」  朝食のあと、学校へ行く藤孝様をお見送りして、お義母(かあ)様から使いを頼まれた。 「はいっ。 参りますっ」  私は今日のやることが出来て、張り切って返事をする。 「どちらまでですの?」  お義母(かあ)様は、私が結婚のために辞めてしまった女学校の名前を言い、それを聞いた私は思わず顔がほころんだ。 「郵便でも構わないのだけれど。  せっかくならば、櫻子さん、懐かしい先生方や、お友達にお会いになってきたらよろしいわ」 「はいっ。 ありがとうございます、お義母(かあ)様っ」  あまり笑ってはくださらないのだけれど、とても優しいお義母(かあ)様で、私は大好き。 「藤孝を送って行った自動車が戻ってきたら、それにお乗りなさいね」 「いえ、お義母(かあ)様。  ワタクシ、元来、身体を動かしていなければ済まない(たち)ですの。  最近は藤孝様が学校に行かれるから、お出かけもほとんど、いたしませんでしょう?  すっかり身体がなまっているのですわ。  歩いて参りますから、お車は結構です」  久しぶりに、女学校の友人や、先生方にお会いできるのが嬉しくて、歩くというより、跳ねて行きたいくらいだ。 「じゃあ、誰か女中を連れて……」 「大丈夫ですわ、ワタクシ、一人で参ります」  お義母(かあ)様から、用を言付(ことづ)かって、私は自室に戻る。  さぁ、何を着ようかしら。  おしゃれしちゃおう。
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