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私はタンスを開けて、あれこれと着物を出し、胸元に合わせて着物と帯を決めていく。
せっかくなら、結婚して、大人びた姿になったと言われたい。
だけど、あまりに上等過ぎる着物では、ただのお使いには重すぎる……。
先週仕立てあがった、近頃流行りの、大きな柄行が印象的な銘仙(※大正中期以降に流行った着物)と、ハイカラな模様の帯を締め、錦紗縮緬で織られた濃紺地に、冬の白木を描いた長羽織を着る。
うん、これなら、格式張っていないし、充分『若奥様』に見えるわ。
女中にも手伝ってもらって、電気ゴテ(※ヘアアイロン)を使って、雑誌に載っていた、最新の髪型である耳隠しに結い上げた。
お化粧も、いつもより丁寧に。
「若奥様、とってもおきれいです」
「そう? ありがとう」
女中の言葉に、鏡の中の私は、まんざらでもなさそうに微笑んだ。
「では、行って参ります」
お義母様に言った通り、私は女中も連れずに、一人で風呂敷包を抱えて懐かしい学び舎へと足を運ぶ。
でも、こんなにおしゃれして行ったのに、帰りは濡れネズミのようになって帰ってくる羽目になる。
もちろん、この後に起こることなんて、この時は全く想像もせず。
『若奥様』と言うには、元気すぎる私は、鼻歌交じりに、飛び跳ねるように女学校へ向かった。
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