僕'と目覚め

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「健吾さんの情報は?」 「まだわからない。」    もうすぐ結婚式だと説得したにも関わらず、綾女は健吾が心配だからとC国に渡った。   「……危険じゃないのか?」 「本人がどうしても行くって聞かないから。綾女が強情なのは伶が一番知っているだろ?」 藤一族の人間を拘束するなど、この国に喧嘩を売っているとしか思えない。  伶はため息をついた。   「危ないから僕が帰るまで大人しくしてろと言ったのに。」 「まあ、一人で行ったわけじゃないし、大丈夫だよ。明日、出社したら会議がある。その時に話をしよう。今日はとにかく休め。」  そう言って拓真は迎えの車のトランクに荷物を載せた。    車に乗っても伶は拓真に仕事の進捗や懸案事項の確認を求め、拓真に「ほんとに伶は真面目だなあ」と苦笑混じりに呆れられた。  * 「ただいま。」 「お、おかえりなさいませ。」 「……?」  家に着くと、馴染みのある使用人たちがぎこちなくこちらを見ている。その中でも年嵩で伶を孫のように可愛がってくれる男性がおずおずと進み出てきた。   「あの……、伶さま、拓真さま。お疲れ様でございました。居間のほうにお茶の用意をしておりますので。」 「うん、ありがとう……。」 「どうした? 伶。」 「いや、みんなの僕を見る目がちょっと違うような……。」 「気のせいだろ。」  みんな、少し怯えたような目をしている気がする。 「そういや、拓真も迎えにきてくれた時に僕を見てびっくりしたような顔をしていたな。」 「そうだったか?」 「してたよ。」  拓真は視線を少し上に向けた。 「ふーん……。いつもと一緒だと思うけど。」 (伶の妙に鋭いところは変わらないなあ。) 「藤田先生は心配ないと言っていたけど、やっぱり病気が見つかったとか……?」  伶が心配そうに拓真に尋ねると、拓真がわずかに動揺した。 「悪いところはなかったよ。それは本当。」  なんだか引っかかる言い方をすると、伶は首を傾げた。  *  部屋で伶と少し話した後、廊下に出た拓真はため息を一つつき玄関の方へ歩こうとした。 「拓真、ちょっといいか?」 「伯父さん。」  立っていたのは伶の父、藤宮慎一郎だった。   「伶を……迎えに行ってくれて助かった。それで……様子はどうだ?」 「変わりないですよ、いつも(・・・)と。」 「混乱とかは?」 「ないです。まだ居間にいますよ、話をしてみては?」 「いや、……まあそうだな。夕食の時に顔を合わせるだろう。拓真も一緒にどうだ?」    拓真は肩をすくめた。 「仕事が溜まっているんで。ご存知の通り伶の仕事がこっちに回ってきているんですよ。」 「そうか。それはすまなかったな。」  慎一郎はそこで押し黙った。   「……伯父さん、念の為に言っておきますが、俺は伶を支えるのが向いているんです。これからも。」  慎一郎は頷き、小さく手を上げ踵を返して去って行った。    拓真はその後ろ姿を見送ったあと、また小さくため息をついて今度こそ玄関の方へ向かった。
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